2022年に、日本において、ドローンに関する規制が大きく変わろうとしています。これまでは認められていなかったレベル4の「有人地帯における補助者なし目視外飛行」を実現するため、必要な法制度を新たに制定する動きが進んでいます。
新たに認められようとしている有人地帯・目視外飛行は、国土交通省の資料内でも「第三者上空を飛行しての荷物輸送等」と挙げられている通り、ドローン輸送の本格化を可能にすると考えられています。
農業・漁業・物流・災害対応といったさまざまな場面でドローン輸送が行われる場合、これまでのような総重量が25kg未満の小~中型ドローンだけでなく、25kg以上の大型ドローンが活用される場面が増えると予想されます。(ちなみに、大型ドローンを厳密に定義づけている文言は見当たりませんでしたが、航空法のガイドラインでは総重量25kg以上のドローンが「大型ドローン」と表現されていました。)
この記事では、便宜的に、次世代のドローンの条件の1つとされる「最大搭載重量(上記で述べてきた総重量ではなく、ドローンに搭載できる重量のこと。ペイロードともいう)が20kg以上のドローン」を「大型ドローン」と表現しています。また、その中でも、電動モーターで回転翼を駆動させて垂直離着陸飛行を実現するeVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing)式の大型ドローンに注目し、国内と海外の一部のメーカーが、どのような大型ドローンを開発しているのかをご紹介します。
(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E3%83%89%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%B3-%E7%89%A9%E6%B5%81%E3%82%BC-2816244/)
レベル4実現に向けた法整備
まず、ドローンをめぐる規制について簡単にご紹介します。以下の図は、国土交通省航空局が出している資料の1ページです。
(Source: https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kogatamujinki/kanminkyougi_dai15/siryou1.pdf)
まず、目視内・目視外という基準でレベル1~2とレベル3~4が分かれます。レベル1~2では、目視内での飛行が求められますが、レベル1では完全に人間の操縦士によるコントロールが必要となる一方で、レベル2では自律飛行(画像や点群といった、センサーから得た情報を基に、ソフトウェアによる自律制御で飛行を実現する)が認められています。
レベル3~4では目視外飛行に主眼が置かれています。レベル3では無人地帯上空での飛行、レベル4では有人地帯上空での飛行が対象です。2021年3月時点では、レベル3までが認められており、実際に各社がレベル3の飛行に取り組んでいます。例えば、国際航業の森林資源調査参入、兵庫県の鳥獣害調査、ゼンリンと楽天による物流実証など、ユースケースもさまざまです。
それでは、レベル4の実現に向けて、どういった法整備が必要になるのでしょうか?先ほどの航空局の資料から、もう1ページ参照してみます。
(Source: https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kogatamujinki/kanminkyougi_dai15/siryou1.pdf)
挙げられている方向性として、①機体の安全性・②操縦者の技能、それぞれの証明が必要となるだろう、と書かれています。
機体の安全性という観点では、型式認証や、国の登録を受けた検査機関による検査事務の実施が挙げられています。(ちなみに、航空機の世界では、ある機体が飛行するためには2段階の認証が必要となっています。機種ごとに発行される型式証明と、型式証明を受けた機体一機ごとに発行される耐空証明。)
操縦者の技能という観点では、国が実施する試験によって技能証明を行う制度の創設や、機体の種類や飛行方法によって資格に限定性を付すことが例示されています。(自動車普通免許でも、オートマチックかマニュアルで扱える車両が限定されているように、ドローンの場合も固定翼か回転翼かによって持っているべきスキルセット・知識が異なるため、限定しようということ。)
簡単にまとめると、レベル4が実現した場合、【国家が実施する試験をパスした操縦士が】、【国家から正式な機体認証を受けたドローンを】、【法令によって決められた運行管理ルールに則って】、【有人地帯上空を目視外で】飛行させる、ということになります。
大型ドローンを開発する国内スタートアップ
レベル4で飛行するドローンは、必ずしも大型とは限りませんが、冒頭でご説明した通り、ここでは搭載重量が20kg以上を想定される大型ドローンと開発メーカーについて、ご紹介します。
サイトテック
H P:https://saitotec.com/
創業:2000年
大型ドローンとして、YOROI(12D1750F)、KATANA(12D1750F)という2種類のドローンを開発しています。どちらも、機体に取り付けるユニットによって物流・点検・測量などの業務に応用することが可能になっているようです。どちらも動力源はバッテリーです。搭載重量と飛行時間はトレードオフになっており、製品ページによると、0kgで20分、30kgで11分、40kgで8.5分、50kgで7.5分と書かれています。
こうした大型ドローンシリーズによって、山間部・過疎地への物資輸送、災害時の調査・救助物資輸送、農業地域での農作物運搬などのニーズに応えようとしています。
PRODRONE
H P:https://www.prodrone.com/
創業:2015年
「Revolutionary Drones for Professionals」というミッションを掲げ、産業用ドローンに特化する愛知県発のメーカー。小型・中型・大型と豊富なラインナップが特徴です。2017年にシリーズAラウンドとして、三菱商事・KDDIといった事業会社を中心に、総額10億円の資金調達を行いました。
PRODRONEの製品ラインナップの中では、PD6B-Type2というドローンが大型に分類され、20kgの搭載重量で10分間飛行することができます。求められるタスクに応じて、搭載物を選択することが可能で、【ズームカメラ単体 / ズームカメラ+赤外線カメラ / レーザー測量装置】など、カスタマイズ性が高くなっています。動力源はバッテリーです。
A.L.I Technologies
H P:https://ali.jp/
創業:2016年
A.L.I Technologiesは、エアモビリティ事業、ドローン・AI事業、演算力シェアリング事業、電力・エネルギーソリューション事業を展開しています。エアモビリティ事業としては、電動ホバーバイクが主力。ドローン・AI事業としては、オリジナルドローン開発に加え、画像解析技術・屋内飛行技術・操縦士派遣などのオプションを組み合わせて提供しています。
大型のドローンとしては、搭載重量30kgで最大50分飛行することができるドローンを開発しています。プレスリリースによると二重反転ダクテッドプロペラによって、飛行距離を伸ばしているようです。動力源については記載がありません。
Drone Future Aviation
H P:https://dronefutureaviation.com/
創業:2017年
Drone Future Aviationは、自社ではドローン開発していませんが、大型ドローンとして国内最大級の搭載重量を誇るGRIFF135を取り扱っています。2020年にはシードラウンドで1億円の資金調達を行いました。ドローン以外にも、宅配ロボットの販売権も保有し、それらのプロダクト群のリースや実証実験を手がけます。
ノルウェーのドローンメーカーGRIFF Aviationと提携し、搭載重量30kgで飛行時間30分のドローンを国内で独占的に販売しています。GRIFFのページを見ると、動力源はバッテリーと書かれています。
SkyDrive
H P:https://skydrive2020.com/
創業:2018年
空飛ぶクルマとカーゴドローンの開発を行っている、愛知県の企業です。2012年に発足した有志団体「CARTIVATOR」のメンバーが中心となって創業。2020年秋には、シリーズBラウンドで39億円の資金調達を行いました。
同社はSD-03という空飛ぶクルマと、Cargo Droneという大型ドローンをラインナップに持っています。どちらも動力源はバッテリーです。SD-03は飛行時間20~30分で、最大搭載人数が2名と書かれています。(1人当たり60~70kgと想定すると、120~140kg程度が搭載可能重量と推定されます。)一方、Cargo Droneは飛行時間15分で搭載重量が30kgとのこと。
用途としては、SD-03は、都市部でのタクシーサービス、離島や山間部の新たな移動手段、災害時の救急搬送など。Cargo Droneの方は、鉄塔メンテナンス時・土木建設現場・災害時の資材運搬などがユースケースとして挙げられています。
大型ドローンを開発する海外スタートアップ
国内で搭載重量20kg以上のeVTOLを開発するメーカーは、恐らく他にもあると思いますが、スペックや仕様などが把握できず、上記のリストに留めました。「うちもやってるよ」とリスト掲載を希望されるメーカー様がいらっしゃれば、ぜひご連絡ください。
国内ではまだ有人地帯を目視外飛行できる法律は制定されていませんが、2022年のレベル4解禁に向けて、これから少しずつ国内の大型ドローンメーカーが増えてくるかもしれません。
海外の大型ドローンメーカーの場合は、重量・飛行時間や動力源の点において、日本のメーカーと違った傾向があるのでしょうか?大型ドローンに力を入れている企業のうち4社をご紹介します。
Volocopter
H P:https://www.volocopter.com/en/
地域:ドイツ
創業:2011年
代表:Florian Reuter
空飛ぶクルマを開発するドイツ発のメーカー。3億6,800万ユーロ(約480億円)を資金調達しており、日本からも三井住友海上火災保険・東京センチュリーといった事業会社が出資しています。エアモビリティ分野のリーディングカンパニーとも言える同社は、2020年にJALとも提携。
同社が2019年に発表した荷物搭載大型ドローンVoloDroneは、最大搭載重量は200kg、飛行時間は40分といいます。18個のローターを回して垂直離着陸します。こちらのサイトを参考にすると動力源はバッテリーのようです。
Volocopoterは、2021年3月、SPACを通じた上場も選択肢に入れながら、資金調達の検討を行っていると報じられました。(SPACについてはIDATEN Venturesでも解説していますので、ご参考ください。)
Lilium
H P:https://lilium.com/
地域:ドイツ
創業:2015年
代表:Daniel Wiegand
Volocopter同様に、大型の資金調達を行っているドイツ企業です。調達総額は3億7,600万ドル(約410億円)に及び、雇用社員は250人以上在籍しているとか。
同社が開発する主力製品は、5人乗りの「Lilium Jet」。フル充電すると300km飛行することができるようです。1人60~70kgとすると、300~350kg程度搭載することができる計算になります。バッテリーを動力源としているようです。
なお、Liliumは、一般的なeVTOLモデルで採用されるマルチローター式ではなく、36機の小型電動ジェットエンジンによってファンを回転させて飛行を実現しています。それによって、時速300kmという高速飛行を実現できているようです。
LiliumもVolocopterと同じく、2021年3月に、Qell Acquisition Corp.というSPACを通じて上場を検討していると報じられました。
近頃、海外のドローンメーカーが相次いでSPAC上場(およびその検討)を報じられています。この記事では紹介していませんが、Archer AviationというeVTOLメーカーは2021年2月に、ユナイテッド航空からの機体受注と同時に、Atlas Crest InvestmentというSPACを通じて上場することを発表しました。その2週間後、Archer Aviationのライバル企業であるJoby AviationもReinvent Technology PartnersというSPACの買収案を受け入れてニューヨーク証券取引所に上場する計画を発表。
Elroy Air
H P:https://www.elroyair.com/
地域:アメリカ
創業:2016年
代表:David Merrill
サンフランシスコを拠点とするeVTOLメーカー。crunchbaseで把握できる限りですが、2021年時点で1,600万ドル(およそ17億円)を調達しています。ローター6機で垂直離着陸を行い、水平飛行に切り替わると、テールにあるガソリンエンジンでプロペラで推進する仕組み。最大で、搭載重量500ポンド(227kg)で飛行距離300マイル(483km)が実現可能と言います。
搭載重量と飛行距離の積をLiliumと比べてみると、Lillium=90,000~105,000kg・kmに対してElroy Air=109,641kg・kmとなり、だいたい同じ数値となっています。Elroy Airは、ハイブリッド電動パワートレインを採用していると書かれていますが、具体的にどういったシステム構成になっているかは読み取れません。
Sabrewing Aircraft
H P:https://www.sabrewingaircraft.com/
地域:アメリカ
創業:2016年
代表:Ed De Reyes
大型物流ドローン「レイガル」を開発するシリコンバレーの企業。搭載可能重量は2,500kgとなっており、他の企業と桁が一つ違います。大きな重量を抱えた状態で垂直離着陸が可能であり、滑走路があれば4,500kgの重量搭載が可能。
動力源には、エンジンからモーターに電力を送ってローターの羽根を回転させる仕組みを採用。なお、同社にはIDATEN Venturesから出資しています。
紹介した4社ともに、日本の大型ドローンに比べると、搭載重量・飛行時間(あるいは飛行距離)が大きな数値になっています。現時点の日本で、これほど大きなサイズのeVTOLは見当たりません。(ただし、SkyDriveの空飛ぶクルマは搭載重量100kgを超えているので、そう遠くないかもしれません。)繰り返しになりますが、これから日本でも、法整備が進むにつれて、もっと大きなサイズのドローンを作るメーカーがより多く出てくるかもれません。
IDATEN Venturesの出資先エアロディベロップジャパンは先日、大型ドローン向けのハイブリッド動力システムの稼働試験成功に関するプレスリリースを出しました。徐々に近付く大型ドローン社会の到来に向けて、着々と準備が進んでいます。IDATEN Venturesとしても、引き続き積極的に支援してまいります。
IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について
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