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Writer's pictureShingo Sakamoto

市場の急拡大が見込まれるリチウムイオンバッテリーリサイクルについて

Updated: Feb 27, 2023

IDATEN Ventures は、毎月「ものづくり・ものはこび関連」スタートアップの資金調達ニュースを公開していますが、2022年7〜8月に、リチウムイオンバッテリーリサイクルスタートアップの資金調達が4件ありました。


過去の資金調達ニュースをさらに遡ってみると、ピックアップしている範囲だけで、2021年9月に1件、2022年5月に1件、リチウムイオンバッテリーリサイクル関連スタートアップが資金調達を実施していましたが、足元この動きが加速しているようです。


今回は、なぜリチウムイオンバッテリーリサイクルが注目されているのか、そして各スタートアップはどのような取り組みを行っているか、掘り下げていきたいと思います。


なお、記事の中で、為替レート(ドル・円)は2022年9月15日時点のものをベースに計算しています。

(Source: https://pixabay.com/ja/vectors/ごみ-容器-リサイクル-157110/)



まず初めに、2022年7〜8月に資金調達を行った、リチウムイオンバッテリーリサイクルスタートアップのご紹介をします。


杰成新能源(Jiecheng New Energy)

資金調達額

事業概要

(図1)

(Source: https://www.nb-shinbun.co.jp/pickup/675fbb406ec5224eab19275029e3f8c0b82424ba/)


  • 同社は、リチウムイオンバッテリーのリサイクル戦略として大きく2つの方向性を示しています。1つ目が「カスケード利用」です。容量が20%以上減衰したバッテリーをエネルギー貯蔵・低速EV等、新車EVとは異なる用途に利用しますが、同社はそこで必要となるバッテリーマネジメントシステムを開発しています。2つ目が、カスケード利用できないレベルに劣化が進んだバッテリーを分解および湿式精錬(鉱石中の金属分を適切な溶剤にとかし,その溶液から金属分を採取する製錬法)し、再び電池を製造するための原料を回収する技術です。

  • リチウムイオンバッテリーのリサイクルは以前から重要なテーマとして注目されており、研究が進んでいますが、バッチ処理と連続処理の間には大きな壁が存在するそうです。同社は、素早くカスケード利用できるバッテリーか見極めるために、バッテリーの電圧内部抵抗、残サイクル数、充放電性能等に関するデータを高速で検出するテスト機器を独自開発しています。

  • また、湿式精錬についても、これからますます増加するバッテリーリサイクル需要に応えるために、プロセス全体のスピードを上げることが求められているそうです。そこで、同社は通常の湿式精錬で求められる蒸発・結晶化等のプロセスを2〜3工程スキップできる新たな精錬プロセスを開発しています。

  • 2021年の同社のリサイクル能力は年間4万トンでしたが、今回の資金調達を経て、新たに年間30万トン分の生産能力増強を行うそうです。また、協業パートナーとして、Apple・DJI・BYD等のメーカーに加え、リチウムイオンバッテリーメーカーが複数並んでいます。なお、2021年時点でのEV用リチウムイオンバッテリー廃棄量の総合計が9万6,850トンということを考えると、30万トン規模への拡張投資は、今後の市場拡大を見据えた大胆な先行投資に見えます。


Li Industries

資金調達額

事業概要

  • 同社は、2017年にアメリカで創業されたスタートアップです。EV・家電製品用リチウムイオンバッテリーのリサイクル事業を展開しています。創業以来、使用済みリチウムイオンバッテリーから、新バッテリーに直接再利用できる高純度の電池材料を生成するリサイクル技術の開発に注力し、特許を取得したそうです。この特許技術を利用したバッテリー選別・リサイクル工場を2023年に建設する計画を発表しています。

  • Li Industriesのホームページを見ると、同社が強みとしている技術は大きく2つあるようです。1つ目が「Smart Battery Sorting」技術で、センサーで検出したバッテリーの物理的・化学的特徴を機械学習で分析し、劣化具合やバッテリータイプの推定を行います(ただし、技術の細かい部分については公開されていません)。2つ目が「直接リサイクル」技術で、使用済みバッテリーから正極材料を分離・再生し、バージン材料(炭酸リチウム原料)の数分の1のコストでバッテリーを製造できるそうです。

  • こちらの記事にもある通り、バッテリーメーカーごとにバッテリーの材料・構造・形状が異なるため、連続的に純度高く分離・再生することが難しいと言われています。そういった背景もあり、前述の「いかに環境負荷をかけずに、材料を分離するか」という部分がバッテリーリサイクルの重要なポイントになります。


恒創睿能(Schenzhen Hengchuang Ruineng Environmental Protection Technology)

資金調達額

事業概要

  • 同社は、2017年に中国で創業されたスタートアップです。EV用リチウムイオンバッテリーのリサイクル事業を展開しています。杰成新能源と同様に同社も、中国で今まさに大量発生しようとしているEV第一世代のリサイクル需要を補足しようとしています。

  • 2022年7月、第7回中国国際新エネルギー会議が開催され、そこでリチウムイオンバッテリーのリサイクルに関する重要性が改めて確認されました。会議の要旨をまとめたこちらのサイトには、特に今後、EVの使用済みバッテリーリサイクルシステム構築に政府が注力する旨が紹介されています。今後、バッテリーリサイクル投資に対する中国政府のバックアップが増えていくと思われます。

  • 同社は、中国政府が正式にバッテリーリサイクルを認めたホワイトリスト企業に選出されており、すでに中国国内9ヶ所にバッテリー回収拠点を設けています。バッテリー回収先には、BYD・広州汽車集団・第一汽車集団・北京汽車集団等の大手自動車メーカーが並んでいます。2022年現在のバッテリーリサイクル能力は年間5万トンで、今回の調達資金によって来年以降は15万トンに達するそうです。

  • また、同社は今回調達した資金を、新たな湿式精錬技術の研究開発に充当するようです。杰成新能源の紹介パートでもあった通り、今後はこの湿式精錬プロセスの効率化、および環境負荷低減が重要になりそうです。


金晟新能源(Jinsheng New Energy)

資金調達額

事業概要

  • 同社は、2010年に中国で創業されたスタートアップで、恒創睿能と同じくホワイトリスト企業に選出されています。同社は、元々ニッケル製造企業としてスタートしましたが、2020年にはEV用リチウムイオンバッテリーリサイクル事業に参入し、年間12.4万トンの処理能力を持つリサイクル施設が稼働開始しました。

  • 同社の株主リストには、リチウムイオンバッテリーメーカー、自動車メーカー等が並んでおり、サプライチェーンを構築する企業とパートナーシップを結んでいます。以前リチウムシリコンバッテリーに関するブログでも書きましたが、バッテリー関連スタートアップは、いかにサプライチェーンを構築するかが重要になります。リチウムシリコンバッテリーの負極を開発するスタートアップの場合、バッテリーメーカー、自動車メーカー、シリコン原料メーカーを株主に招き入れてサプライチェーンを固めていますが、バッテリーリサイクルスタートアップの場合も同じことが言えそうです。バッテリーメーカーはもちろんのこと、自動車メーカー、電子機器メーカーと協業し、安定した原料(使用済みバッテリー)、供給先(EV、電子機器)を確保しておくことが、企業としての安定性につながります。


なお、リチウムイオンバッテリーリサイクルは、中国に限らず、世界中で注目が集まっている分野です。すでに、スタートアップから大手企業まで、続々と市場参入が続いています。例えば、2021年8月にニューヨーク証券取引所に上場したLi-Cycleは、2016年の創業から5年で上場したスタートアップです。ちなみに、同社の強みは95%の材料回収効率を誇るリサイクルプロセスにあり、使用済みバッテリーから負極・正極・プラスチック・銅箔等の部材を自動的に分離し、高熱処理を伴わずにリサイクルすることができるそうです。この分離技術は、上記でご紹介した企業らも研究開発を進めているテーマになります。


このほかにも、こちらのレポートでは、Veolia(フランス)、Asend Elements(アメリカ)、American Manganese(カナダ)、Redwood Materials(アメリカ)、Umicore(ベルギー)、Stena Recycling(スウェーデン)、Daimler(ドイツ)、Britishvolt(イギリス)等のリチウムイオンバッテリーリサイクル事業が紹介されていますので、ご参考ください。


世界中でリチウム需要が逼迫する中、リチウム原料を海外からの輸入に頼る日本にとって、リチウムイオンバッテリーリサイクルは非常に重要な技術となります。2022年3月に日本で開催された「第7回マテリアル戦略有識者会議」の議事録を見ると、日本は中国に比べて使用済みEV用リチウムイオンバッテリーの量自体がまだ少なく、中間処理(解体・焙焼・粉砕・選別)および精製コストが高止まりしていることが指摘されています。日本においても、これらのコストを下げるような研究開発は今後重要になっていくと思われます。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革を支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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