この記事では、2021年現在、大きな注目を集めている建設スタートアップのトレンドについて、ご紹介します。
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近年、日本で建設業界を主戦場とするスタートアップが着々と増えています。その背景には、起業家だけでなく投資家も市場のポテンシャルに気がつき、リスクマネーが流れやすくなったことが関係していると思われます。
企業の数はもちろん、大型の資金調達が目につきます。クラウド上で写真・図面を共有する施工管理アプリを提供するANDPADは累計87億円、建設現場と職人をつなぐマッチングアプリを提供する助太刀は累計20億円弱、データ一元管理サービスを提供するPhotoructionは8億円弱、資金を集めています。(*公開情報で把握できる範囲内での金額を記載しております)
日本の建設スタートアップのトレンド
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さまざまなスタートアップが現れているように見えても、これらのソリューションにはいくつかの型があります。デロイトの建設業界に関するレポートを参考に整理すると、建設業界をより「スマート」にするアプローチとして、大きく分けて以下の3つあります。
マネジメント業務向けのソリューション
個別の現場業務向けのソリューション
バリューチェーンを最適化するソリューション
現在、日本でいくつか現れてきているのが、1番目のマネジメント業務向けソリューションです。プロジェクトマネジメント、コストマネジメント、ファイルマネジメント(写真・図面・ドキュメント)、コミュニケーションマネジメント、など多岐に渡ります。こういったサービスはバーティカルSaaS(特定の業界に特化してカスタマイズされたSaaS)として、注目を浴びています。
こうしたソリューションのニーズが強い理由として、建設業界が持つ多重構造が関係しています。建設会社と聞くと大規模なゼネコンが取りあげられがちですが、実は少人数で運営しているような中小建設業者が少なくありません。全国には47万の建設許可業者がいると言われていますが、就業者数は2018年時点で500万人と、単純平均で1事業者10人ちょっとの規模感ということになります。となると、比較的小規模な複数の業者が1つのプロジェクトに関わる形になります。こうした背景もあり、異なる会社間で連携をとるニーズが強く、コミュニケーションやデータのマネジメントソリューションが重宝される傾向にあります。
同様の理由で、人材・企業マッチングのニーズも強いと言えます。慢性的な人材不足に困るプロジェクト運営側と、営業部隊を持つほど会社規模が大きくない中小企業や独立した職人をマッチさせるプラットフォームが注目されています。
グローバルの建設スタートアップのトレンド
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日本の建設市場は約60兆円ですが、米国は日本の倍で世界トップクラスの約120兆円の市場規模を誇ります。米国を含むグローバル市場では、どのような建設テックがトレンドとして見られているのでしょうか?
この点において、ローランド・ベルガーがグローバルの建設スタートアップトレンドについてまとめており、2020年以降の注目テーマとして以下3つを挙げています。
AR / VRによるデジタル建築
コネクティビティ
スマート機器による現場データの作成
日本で現在資金調達が進んでいるスタートアップのテーマとは少し様相が異なるように見えます。グローバルでは、より現場に近いpracticalなテクノロジー活用が注目されているようです。
ただし、日本とグローバルの間に根本的な差異があるというわけではありません。というのも、実はグローバルでも、2019年頃までは建設スタートアップの資金調達の3分の2を占めていたのは、マネジメント系ソリューションでした。日本と同様に、これまで紙とペンで管理されていた業務をデジタル化するようなツールに最も目が向けられていたのです。そういった中で2020年以降は、設計・土木・施工など、より「つくる」場面で使われるソリューションがトレンドになる、と言われているのです。
具体的に、先の3点はどういった内容なのか、簡単に見ていきましょう。
1つ目のAR / VRについて、例えば、VRゴーグルを使って、3D / BIMモデルを立体的に把握することで、壁の裏側の配管修理に関する精緻な議論をするなど、2次元では見落としていたような計画を立てることが可能になるされています。
2つ目のコネクティビティは、やや抽象的なコンセプトですが、3M(「Man」,「 Material」,「Machine」)の相互関係を変えるようなテクノロジー群です。職人のマッチングというのも、人間同士のコネクションづくりであると捉えると、これからは人間と機械、人間と建材、機械と建材、がどう繋がるのか、という視点が大事になってきます。
例えば、建機の遠隔操作 / 自動運転は、まさに人間と機械の関わり方を大きく変える技術です。建機の自動運転化は注目されており、アメリカのBuilt Robotics、SafeAIをはじめ、いくつもスタートアップが名乗りを挙げています。日本でも随分前からゼネコンや建機レンタル会社を中心に動いていますが、これからはスタートアップの数も増えていくでしょう。
3つ目のスマート機器による現場データ作成は、センサーや通信ネットワークが重要になってきます。材料×センシングという文脈では、IDATEN Venturesが投資するNejiLaw(http://www.nejilaw.com/)がセンサー化された締結部材という切り口で、構造物の常時遠隔モニタリングができるような技術を展開しており、まさに次世代建設業に取り組んでいます。また、現場データ作成という点では、ドローンを使った測量、センサーを搭載したフィールドロボットによる構造物のスキャニング、現場作業者のウェアラブルデバイスからさまざまなデータを採取するなど、リアルな世界から得たデータ処理が増えてくるでしょう。
面白いことに、Gilbert-AshのテクニカルディレクターであるFinbarr McMeel氏が予想する2020年以降の次世代建設技術としても、上記と非常に似たテーマが挙げられています。そこで指摘されているのも、BIM・VR / AR・ドローンの活用です。それ以外で興味深いものとして、建物内の音響を事前にシミュレートする技術があります。オフィススペースや劇場といった構造物では防音性や響きの重要性が増しており、これからは音響ソフトウェアがもっと出てくるはずだと述べています。もう1つ、ジェネレーティブデザイン技術のさらなる発展が言及されています。すでにAutodesk社のジェネレーティブデザインソフトはグローバルでさまざまなクライアントに使われています。
日本でも「つくる」にフォーカスする建設スタートアップが増えてくるか
話を少し戻しますと、大きな流れとして、グローバルでも日本と同じく、これまではマネジメント系サービスが多く出てきていましたが、ここ1~2年でより現場に近いところで活きる「つくる」技術が注目されています。
こうした波は必ず日本にもやってくるでしょう。そうした領域で先行する海外スタートアップが日本に流れてくる可能性はありますが、建設業界は歴史も古く、つながりを大切にする独特の商習慣もあるため、日本発のスタートアップが持つ可能性は小さくありません。ここ2~3年で、日本発のテック系建設スタートアップは急速に増えてくることが予想されます。すでにスタートしている企業は、先行者利益を活かしながら、いかに素早くシェアを広げるか、という視点が今まで以上に重要になりそうです。
IDATEN Venturesは毎月、国内・海外ものづくりスタートアップの資金調達ニュースをまとめていますので、ぜひこれからはそちらもご参考ください。
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