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Writer's pictureShingo Sakamoto

EV普及と充電ステーション、スタートアップの参入余地

Updated: Jun 16, 2021

この記事では、電気自動車の普及に欠かせないと言われている、充電ステーションの普及状況や、普及のポイント、そしてスタートアップの関わり方について、海外情報も参考にしながらご紹介します。


(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E9%9B%BB%E6%B0%97%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A-%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%89%E8%BB%8A-%E5%85%85%E9%9B%BB-2783573/)



脱ガソリン車とEV化の波

2020年12月、東京都知事が、2030年までにガソリン車販売を廃止し、電気自動車やハイブリッド自動車へと転換していく、という方針を都議会で打ち出しました。


今回の都知事の、2030年までに規制をかけるという発表は、当初目標を大幅に前倒しするものとなっています。もともと、2010年に経済産業省が掲げた、新車販売台数に占める新世代自動車の割合に関する目標は、以下のようになっていました。


まず、2020年に従来車を50~80%、残りの20~50%を次世代自動車にすることを目標としていました。次世代自動車の内訳は、

  • 20~30%:ハイブリッド自動車(以下「HV」。2種類以上の動力源を備える車両を指す。エンジンとモーターの関係性によっていくつか種類があるとされている。外部電源からの充電ができず、走行中に発電した力を使用する。)

  • 15~20%:電気自動車(以下「EV」。100%電気で走行する車両。)とプラグインハイブリッド自動車(以下「PHV」。外部電源からの充電が可能なHV。)の合計。

  • 残りの数%:電池自動車(以下、「FCV」。水素を燃料として自家発電しながら走行する車両。)とクリーンディーゼル車(大気汚染物質の排出量が少ないディーゼル車両。)の合計。


2030年には、より次世代自動車の割合を増やし、従来車30~50%、次世代自動車が50~70%を目指します。そのうち、HV30~40%、EV+PHV+FCVで23~33%(電気を主動力源として走行する車両群)、そしてクリーンディーゼル車が5~10%、という内訳です。


ちなみに、ガソリン車規制の開始年について、日本は国としての具体的な数字を示していませんが、他国の状況を参考までにいくつか記載しますと、以下のようになっています。

  • 2025年:ノルウェー

  • 2030年:スウェーデン・オランダ・ドイツ・イギリス・アイルランド・アイスランド・スロベニア・イスラエル

  • 2035年:アメリカ・カナダ(両国ともに一部地域)

  • 2040年:フランス・スペイン


期待される充電ステーションの普及

こちらの記事でも紹介した通り、こうした国際的なEV機運の上昇を背景に、アメリカでは新興のEVメーカー・ハイブリッド化ソリューション企業が続々とSPAC上場を行っています。(なお、SPACについてはこちらの記事をご参照ください。)


電気を主動力源として走行するEV・PHVが普及するためには、充電ステーションが増えることが重要であり、アメリカでは充電ステーションを展開する企業もSPAC上場を行っています。EVドライバーたちに不便を感じさせないほどの数のステーションを設置しようとすれば大きな資金が必要になりますから、盛り上がるEVの波に乗り、大型の資金を調達して、設置密度・地域の拡大を図っているようです。



では、この記事の本題となりますが、日本でEV・PHVを充電するステーションは、いまどういった状況になっているのか、普及のポイントは何か、そこにどのようなビジネスチャンスがあるのか、見ていきましょう。


こちらのサイトでは、2019年末時点で、公共の充電ステーションとして、約2万箇所(*GoGoEVという充電スポット検索アプリに登録されている箇所数)存在するいうデータがあります。2016年時点に1.6万箇所、2017年1.8万箇所、そのあとは年間数百箇所ずつ増加しているようです。

(Source: https://smp.ev.gogo.gs/news/detail/1579223795/)



ちなみに、上記のグラフにもありますが、充電器には大きく分けて、普通充電と急速充電があります。普通充電では、電線を通ってきた100Vまたは200Vの交流電圧をそのまま車両に供給します。車両内部で交流→直流に変換するインバータの大きさや性能が限られるので、急速充電器に比べて充電に時間がかかります。


一方で、急速充電では、充電器側の大きなインバータで交流→直流に変換させるので、充電を相対的に早く済ませることができます。バッテリーの大きさや充電器のスペックによっても幅があると思いますが、JAFのサイトを参考にすると、航続距離80kmに対して、充電時間が普通充電器だと4~8時間、急速充電器だと15分が目安と書かれています。



EVをより普及させるためには、この急速充電器を増やすことが重要と言われていますが、導入費用が普通充電器よりも高く、設置者の経済的負担が大きいのがハードルを上げています。(これに対して、政府は補助金を用意するなど支援しています。)


経産省が出しているレポートでは、2017年時点(以下の図中で「現状」と書いてあるのが2017年)では、導入コストが数百万円(機器代+設置工事代)かかる一方で、EV普及率が低いため収入が少なく、ランニングコストだけで赤字になり、イニシャルコストをいつまでたっても回収できないような計算モデルになってしまっています。

(Source: https://www.meti.go.jp/information_2/publicoffer/review2017/html/h29_s6.pdf)



EV普及と充電スタンド普及は、鶏と卵のような関係にあると言えるかもしれません。EVが増えなければ、設置者サイドの設備導入費用に対して収入が足りず、導入インセンティブがありません。一方で、EVドライバーの視点に立つと、充電スタンドの数が充分になければ、日常的にEVを使う安心感が得られないかもしれません。もちろん、そもそものEVの価格や、充電一回あたりの航続距離など、他にもEV普及の鍵になる要素はありますが、やはり充電ステーションの数というのは大きなファクターになります。



充電ステーション設置側にどうメリットをもたらすか

とすると、充電ステーション設置者に対して、いかにインセンティブづけるか、という点が充電ステーション及びEVの普及を後押しする要因の一つになりそうです。海外では、充電ステーションを軸に、充電だけではない付加価値をつけることでユーザーや充電器設置者を呼び寄せるような動きが見られます。


例えば、カナダ発のChargePointは、充電器とクラウドサービスを一緒に提供することで、設置者とユーザーがどちらも快適なEVサービスを享受できるような仕組みを作っています。まずEVドライバーには、充電スポット検索や充電までの待ち時間の把握ができるアプリを無償で提供します。一方で、設置者には【売り切り・レンタル】で選択可能な充電器と一緒に、会員を管理できるソフトウェアを提供します。充電ステーションオーナーは、ソフトウェアを通じて、充電価格の自由な設定を行ったり、ユーザーのビッグデータを解析したりすることで、持続可能な充電ステーション運営が行えるようになります。


また、Voltaというアメリカの充電ステーション企業は、設置者の収益機会を増やすために、充電器にデジタルサイネージを搭載し、広告収入を得ることを可能にしています。設置者は、広告収入によって電気代(だけでなく、初期設備費やメンテナンス費も)をまかなうことができ、ユーザーは無料で充電できるそうです。


こうした充電ステーション企業を、大手企業が買収する、という動きが見られます。例えば、世界的な石油メーカーであるシェルは、充電ステーション事業に乗り出しました。アメリカのGreenlotsと、ドイツのUbitricityというEV充電企業を次々に買収し、先日は50万箇所に充電ステーションを設置するという目標を公表しました


British Petroleumも充電ステーションを手がけるChargemasterを買収し、ガソリンスタンドでの充電を可能にしています。また、日本のJXTGもフィンランドのスタートアップVIRTAに出資し、協業関係を結んでいます。全国に1.3万箇所持つサービスステーションを活用していく考えのようです。いよいよ本格的に、エネルギー企業が充電ステーション事業に乗り出してきそうです。すでにスタンドというアセットを持つエネルギー企業の参入によって、一気にステーションの数が広がるかもしれません。



日本でスタートアップの参入余地はどんなところに?

冒頭の都知事の方針が示す通り、日本でもEV化の流れは進み、それに伴って充電ステーションの拡大に対する社会的要請も大きくなっていきそうです。こうした市場の中でスタートアップが参入する余地はあるのでしょうか。


日本でも、いくつかこの領域で事業を行っているスタートアップがあります。例えば、ジゴワッツという会社は、認証機能つきのEllaという小型普通充電器を提供しています。丸紅とスマートドライブは共同で、EVの充電に関する各種ソリューションを手がけており、最適な充電タイミングや、充電器導入に伴う電力バランスの調整に関する事業を行っています。


また、違ったアプローチで充電ステーション不足の課題解決を行っているスタートアップもあります。水に浮くEVを開発するFOMMは、バッテリーを交換可能なカセット式にし、提携スポットで充電済みのバッテリーと交換することができるBattery Cloudという仕組みを採用しています。


他にも、ワイヤレス給電というアイディアもあります。こちらの資料では、道路の下にコイルを敷き、走行しながら給電する仕組みが提示されています。この場合、コイル部分のコスト低減、コイルとEVの互換性など、解決すべき課題がまだいくつか残っているようです。ただし、インフラとしてこの仕組みが整備された場合、走行しながら給電されるため、搭載するバッテリー容量を減らし、EVの価格が下がり得る、というのは興味深い論点です。


太陽光発電を利用したEVも考えられます。オランダのEVスタートアップであるLightyear Oneは、1回の充電で720km走行するソーラーカーを開発中で、すでに100台以上予約があると言われています。 これも、充電ステーションを増やさずにEV社会に近づく一つの手段でしょう。



あるいは、既存のリチウムイオンバッテリー技術の進化(IDATEN投資先のTeraWatt Technologyはまさにそうしたスタートアップで、耐久性が高く、重量エネルギー密度の高いバッテリーを開発しています。)も重要です。


このように、技術系スタートアップが活躍する余地がいくつもありそうですが、調べている中で、充電ステーションあるいはEVビジネスに関連する国内スタートアップの数は決して多くないと感じ、海外との違いに少し驚いています。ただしそれもそのはずで、まだまだ充電ステーションの数が少ないので、スタートアップからすると黎明市場に見えているからでしょう。


もし、この記事を見てくださっていて、EV充電ステーションに関連する事業を既に行っている、これから始めようとしている方、あるいは、こういった市場に関心がある方は、是非ともご連絡いただければ幸いです。



IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革を支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。

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