2021年4月、日立製作所(以下「日立」)が立命館大学発のロボットベンチャーであるKyoto Roboticsを買収した、というニュースがリリースされました。一般的に、日本の大企業が日本のベンチャー企業を買収するというのはそう頻繁に起こるものではないため、個人的には少し驚きました。同時に「技術系のB2Bスタートアップが、M&Aを経て次のステージに進むことができる」という事実がスタートアップエコシステムそのものを活性化させると思い、とても嬉しい気持ちになりました。
先日Siemensの記事をリリースしたばかりで、自分の中でIoTプラットフォームがホットなテーマだったこともあり、SiemensやGEとIoTプラットフォーム事業で競合する日立が、どのようなデジタル戦略を進めているのか気になりました。そこで、今回は日立のデジタル化への軌跡を調べてみることにしました。
日立は数々の買収・売却を繰り返しています。例えば、子会社の日立金属をベインキャピタルに売却する、日立建機の売却を検討しているというニュースは、記憶に新しいと思います。その他にも、さまざまな事業統廃合を行っている日立のM&A一覧をただ羅列しても、何がメッセージかわからなくなってしまうため、あくまで「デジタル化への軌跡」というところに絞って、私なりの視点で書いていきたいと思います。
(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E3%83%84%E3%83%AA%E3%83%BC-%E6%97%A5%E7%AB%8B-%E6%A3%AE%E6%9E%97-%E6%9E%97-%E7%B7%91-18480/)
日立の業績・組織体系
まずはじめに、日立の業績と組織体系を確認しておきます。
売上 2018年度:9兆4,806億円、2019年度:8兆7,672億円。そのうち日立本体が約6割、連結子会社が残りの約4割を占めています。
営業利益 2018年:7,549億円、2019年:6,618億円。営業利益率は本体が8~10%に対して、連結子会社分は6%程度となっています。
上場子会社だった日立ハイテク、日立化成などの統合・売却を経て、2021年4月現在の上場子会社は、日立建機と日立金属のみになりました。こうした事業再編の判断軸となるのは、日立が進めるデジタル化とのシナジーがあるかどうか、のようです。
日立本体の組織体系は次のようになっています。社長直下に大きく5つのセグメントが存在し、それらはモビリティ・ライフ・インダストリー・エネルギー・ITから構成されています。それぞれのセグメントには、いくつかのビジネスユニットが紐ついています。少し複雑になっているため、日立のホームページに掲載されている組織機構図を参考にして、以下に簡易図を作成してみました。
(Source: https://www.hitachi.co.jp/about/corporate/organization/__icsFiles/afieldfile/2021/03/29/20210401_j.pdf)
特にこの中でデジタル化の旗振り役となっているのが、インダストリーセグメントの産業・流通ビジネスユニットです。2018年に同ユニットのCEO(日立は各ビジネスユニットにCEOを据えるカンパニー制を採用している)が発表している資料では、産業・流通ビジネスユニットが、IoTプラットフォームを中心的に推進する役目を担っていることがわかります(オレンジ色の枠線で囲まれた部分)。この中央下付近に灰色で塗られている「Lumada」というプラットフォームが、日立グループ全体が力を入れて取り組んでいる、デジタル化の核となるプロジェクトです。
(Source: https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2018/06/0608/20180608_03_id_presentation_ja.pdf)
Lumadaとは
日立のIoTプラットフォームであるLumada事業は2016年にスタートしました。由来は「illuminate + data」からきているそうです。「OT(Operation Technology:制御・運用技術)」、「IT(Information Technoloty:情報技術)」、「プロダクト(日立が開発・販売する製品群)」、3つの日立の強みを掛け合わてシナジーを創出しよう、というコンセプトです。
2021年3月22日には、Lumadaの共創拠点となる「Lumada Innovation Hub Tokyo」が始動。日立は東京駅にリアルなオフィスを構え、社内組織・顧客・パートナー企業・アカデミアがオフラインで集まれる場所を創りました。コーポレートサイトで日立は、このコンセプトを「洛中洛外図」と表現。洛中洛外図は、京都の市街(「洛中」)と郊外(「洛外」)を一望する絵となっており、二条城、寺院、そしてさまざまな商売を営む市民が、一つの平面図に色鮮やかに描かれています。日立は、階層によって分断された関係ではなく、水平で開放的な協業によって、Lumadaを創り上げたいという想いがあったのではないかと思います。
Lumadaのアーキテクチャ
Lumadaのアーキテクチャは以下のようになっています。鉄道・建機・エレベーターといった現実世界との接点となる場所(左側で「OTアセット」と表現されている部分)からデータを吸い上げ(中央の「Edge」)、そのデータを企業データ(例えば、営業システム・会計システムで管理されているデータなど。右側の「ITアセット」部分。)と組み合わせて、蓄積(「Core」)・加工(「Data Management」)、可視化(「Studio」)、解析(「Analytics」)などを行います。
(Source: https://www.hitachi.co.jp/products/it/lumada/technology/index.html#arch)
顧客はGCP(Google Cloud Platform)・AWS(Amazon Web Service)・Microsoft Azure・Hitachi Cloudなどのクラウドサービスを通じて、日立あるいはパートナー企業が開発したアプリケーションを自由に組み合わせて利用することができます。
例えば、AWS上にデータ分析アプリを構築することもできますし、Htachi Cloudに現場から収集したデータをつなぎ、そこでデジタルツイン(現実世界をデジタル上で表現すること。この例で言えば、生産現場の機械・コンベアの配置やモノの流れを、タブレットやPC上にデジタルで表現するようなイメージ。)を構築することもできます。顧客の開発・運用環境に合わせてカスタマイズして提供することが可能になっています。
クラウドサービスとの関係性
こうしたIoTプラットフォームを展開する企業とクラウドサービスの関係性は重要です。というのも、顧客はGoogle(GCP)・Amazon(AWS)・Microsoft(Azure)などの巨大企業が提供するクラウドサービスを使っている場合が多く、IoTプラットフォーマーがクラウドサービスを自社開発しようとするとバッティングする可能性があるからです。
まさに、GE(General Electric)のPredixというIoTプラットフォームは、そのバッティングリスクを感じ、Predix Cloudというクラウドサービス計画を早期に断念しました。そこから教訓を得たであろうSiemensは、プラットフォームのローンチ後、早々にAWS・Azure・Alibabaといった大手クラウドサービスと手を組みました。
一方で、日立はエンタープライズクラウドサービスを立ち上げています。あえて競争の激しいマーケットに飛び込んだのはどうしてでしょうか?その問いに対する私の仮説は、「日立が想定する国内の顧客には、まだクラウドサービスは十分に浸透しきっておらず、ソリューションと一体化したパッケージにすることで、日立のクラウドサービスを導入してもらえると考えたからではないか?」というものです。
調べてみると、総務省のデータによれば、LumadaのようなIoTプラットフォームの顧客ターゲットとなりそうな産業(建設業・製造業・運輸業など、赤い棒グラフで示している部分)は全産業におけるクラウドサービス利用率の平均である65%以下になっているようです。ただし、もちろん本当の意図はわからず、あくまで私の仮説ですのでご留意ください。
(Source: https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd232140.html、同サイトを参考に筆者が作成)
Lumadaへの注力とその進捗
Lumadaの進捗を確認していきます。その前に、まずLumada事業がSiemensやGEのIoTプラットフォームに比べて、カバーしている範囲が少し広いということに注意しなくてはなりません。Lumada事業は、もはや一つのセグメントに紐ついているものではなく、全ビジネスユニットを横断する存在となっています。データが関係するビジネスは、ソフト・ハード問わずLumada事業として把握している、と私は理解しています。
(Source: https://www.hitachi.co.jp/about/corporate/organization/__icsFiles/afieldfile/2021/03/29/20210401_j.pdf、同サイトを参考に筆者が作成)
2020年3月期の決算を見てみると、やはり5つのセグメント全てでLumada事業の売上として認識している項目があることがわかります。2019年のLumada事業売上は1兆370億円で、ITが3,880億円(37%)、モビリティが2,240億円(22%)、上場子会社が1,970億円(19%)、インダストリーが1,530億円(15%)、エネルギーが410億円(4%)、残りがライフとなっています。
(Source: https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2020/05/0529/2019_Anpre.pdf)
繰り返しになりますが、SiemensやGEを含む他のIoTプラットフォーマーと単純比較すべきではないと思います。それは、ある会社が「〇〇施策や△△事業による売上収益」と説明する際に、どういった定義で切り分けているか外部から詳細にはわからないですし、扱う製品群も企業によって大きく異なるからです。
その前提のうえで、決算をみる限り、Lumadaの効果は順調に出ているようです。2021年2Qの決算でも、ITセグメント・モビリティセグメントで堅調に収益が伸びていると書かれています。
Siemens同様に、日立は元々かなりハードウェアの色が濃いビジネスモデルでした。冒頭に挙げた通り、デジタル化を進める中で、データビジネスと関係の薄いハードウェアビジネスは売却し、代わりにLumadaと関係の深そうなビジネスを買収してきました。その前から盛んに買収はしていましたが、2019年にはCVCとしてHitachi Ventures GmbHをミュンヘンに設立し、スタートアップ探索に本腰を入れ始めました。
それでは日立が今の形になるまでに、どのような会社をM&Aしてきたのでしょうか?次の章で見ていきましょう。
日立のM&A案件
日立は、積極的にM&Aを通じてデジタル化を進めてきましたが、そのほとんどは海外案件でした。だからこそ、2021年4月に日本企業をM&Aしたことに、私は少し驚きました。Kyoto Roboticsは、日立が進めてきたデジタル化への変貌のミッシングリンクとなる重要企業と書かれていますが、一体それまでにどのような企業をM&Aしてきたのでしょうか?新しい順にご紹介していきます。
Kyoto Robotics
時期:2021年4月
金額:不明
地域:日本
創業:2000年
事業:知能ピッキングロボットの開発・販売
Kyoto Roboticsは立命館大学発のスタートアップです。ロボットの3次元ビジョンおよびAIを活用した制御システムを開発しています。3次元ビジョンとは、簡単にいうと、対象物の長さや幅などの寸法を測ったり、距離・位置・姿勢を求めることです。
同社は「TVS」と呼ばれるビジョンセンサを開発しており、ステレオカメラ(複眼カメラ)で撮像した画像から得た輪郭と、プロジェクタパターン照射(複数の異なる方向から縞模様の光を対象物に当て、その反射光を受光する)によって得た点群を、3D CADデータと照合して、精度高く距離を測ります。
3D CADデータがあればこそ精度高く距離計測ができると思いましたが、プレスリリースには、同社は「マスターレス(事前に対象物の重さや大きさなどの情報を登録しておくことが不要であること)の知能ロボットシステム」を開発していると書かれていました。ここらへんはもう少し詳細に聞いてみないとわかりません。
日立が得意とするAGV(Automatic Guided Vehicle。倉庫内などを走行する無人搬送車のこと)と組み合わせ、対象物をパレットに積む作業(パレタイズ)や、パレットから下ろす作業(デパレタイズ)を自動化することによって、倉庫内のオペレーションを完全自動化に近づける狙いのようです。
Global Logic
時期:2021年3月
金額:96億ドル(約1兆500億円)
地域:アメリカ
創業:2000年
事業:DXコンサルティングおよび各種ソフトウェア開発・運用・保守
2018年に日立史上最高額となった約7,000億円でABBパワーグリッド事業を買収(*この案件については後ほど登場)した3年後、それを上回る1兆円規模の買収案件が生まれました。Global Logic社は、日本でいうSIer・コンサルファームのような位置付けです。2020年度の売上は9億2100万ドル(約1,000億円)を見込んでいます。。世界14ヵ国に約2万人以上の従業員を擁し、通信・金融・自動車・ヘルスケア・ライフサイエンスなど、幅広い顧客基盤を持っています。
エッジデバイス側のアプリケーション開発に強みを持ち、また顧客にコンサルテーションしながらDX支援をすることができる同社の買収によって、Lumadaの導入を加速させる狙いのようです。
seneos GmbH
時期:2020年4月
金額:非公表
地域:ドイツ
創業:2007年
事業:自動車部品向けソフトウェア開発
ドイツのケルンに拠点を構え、自動車部品メーカー向けのソフトウェア開発で豊富な実績を持つseneos。制御・管理といった自動車向けの組み込みソフトウェアに強みを持つ同社の買収によって、日立はポルシェやダイムラーといった欧州の一流メーカーの顧客基盤と同時に、同社のソフトを通じて自動車のデータを集めることができるようになります。
FusioTech Holdings
時期:2020年4月
金額:非公表(数百億円規模?)
地域:マレーシア
創業:2020年
事業:データアナリティクスSaaSの開発・導入・運用
2005年設立のFusionex社から2020年2月に事業承継したFusioTech Holodingsを、その2ヶ月後に日立が買収。買収時のプレスリリースによれば、Fusion TechはビジネスアナリティクスとAIに関するSaaSモデルのアプリケーション群を中心に、アプリケーションの導入コンサルティング・構築・運用サービスまでをワンストップで提供しています。1万1,000社の顧客と、デジタル人材約260人を抱える同社の買収によって、日立は東南アジア地域の顧客基盤・エンジニア・SaaS製品群を手に入れることになります。
Containership
時期:2020年3月
金額:非公表
地域:アメリカ
創業:2014年
事業:コンテナ化されたワークロードの複数システム間共有サービス
ワークロードとは、使われる文脈によって微妙に意味合いが異なりますが、クラウド化においては、 IT資産 (サーバー、バーチャルマシン、アプリケーション、データ、など) の集まりを指します。
日立は、廃業となったContainershipという企業から、IP(Intellectual Property=知的財産)だけ買収。同社は複数のコンテナを管理するKubernetesクラスターを複数システム間で移動・共有管理するサービスを提供していました。
TechCrunchの記事によれば、買収を主導した日立の関係者が、「そのソフトウェアは、Kubernetesを使っている企業が直面するクラウドネイティブの重要な問題、例えばパーシステントなストレージのサポートや認証の一元化、監査のロギング、継続的デプロイメント、ワークロードの可搬性、費用分析、オートスケール、アップグレードなどなどを解決する」と語っています。
JR Automation
時期:2019年12月
地域:アメリカ
創業:2000年
事業:ロボットシステムインテグレーション
工場の生産ラインなどを設計・構築するロボットシステムインテグレーター。特に、組立や溶接工程に強みを持ち、自動車・航空機・医療機器の分野で顧客基盤を持つといいます。2018年度の売上高は約670億円。買収時、北米・欧州・アジアの23拠点で合計2,000人以上の従業員を抱えていたそうです。
Chassis Brakes International Group
時期:2019年6月
地域:オランダ
創業:2012年
事業:自動車向け安全システムの開発
ブレーキ技術を活かし、自動車向けの幅広い安全システム製品群を展開する。従業員は5,500人、直前期の売上は9億3,700万ユーロ(1,127億円)。この買収によって、EV化や自動運転化といった自動車業界の変革期においても、重要な役割を果たす安全システムにおいて日立はプレゼンスを高め、データ収集のタッチポイントを得ることになります。
ケーイーシー
時期:2019年3月
金額:不明
地域:日本
創業:1981年
事業:ロボットシステムインテグレーション
JR Automationのように、生産ラインの自動化を支援するロボットインテグレーター。プレスリリースでは、特に溶接工程における技術に独自のノウハウと強みを持つと書かれている。直前期である2018年6月期の売上高は約24億円。同年末に買収することになるJR Automationとケーイーシーによるロボットインテグレーションは、顧客の生産ライン自動化を進め、Lumadaに活用するデータの収集をより容易にすることになりそうです。
パワーグリッド事業(ABB社)
時期:2018年12月
金額:68億5,000万ドル(約7,040億円)
地域:スイス
創業:1988年
事業:電力関連・重工業など
ABB(Asea Brown Boveri)グループはスイスに本拠を構え、ファナック・安川電機などと並ぶ産業用ロボットメーカーの1つ。日立はABBグループが展開するパワーグリッド(送配電)事業を買収しました。
こちらの記事によれば、パワーグリッド事業の買収前年度の業績は、売上100億2,800万ドル(約1兆800億円)、営業利益8億7,500万ドル(約940億円)という。7,000億円を超える金額は、日立が投じた買収額の中で歴代最高でしたが、これによって世界首位のシェアを持つ送配電関連のプロダクトを手に入れることができました。
H-E Parts
時期:2016年12月
金額:2億4,000万ドル(約263億円)
地域:アメリカ
創業:2006年
事業:マイニング・建設機械に関連するサービス・部品の開発等
前年度の売上は288億円。EBITDAマージンが11.1%なので、EBITDAは約32億円。日立建機の資料から、日立がH-E Ports買収した理由を大まかに2つ読み取りました。
1つ目は、アフターマーケットへの参入。H-E Partsは、部品販売や修理といったメンテナンス事業に強みを持っており、今回のM&Aは、売切りで終わらないリカーリング収益モデルを日立が構築するうえで布石となる案件です。例えばアフターサービスを通じて得た顧客のデータを解析し、より最適化された部品の生産・在庫管理ができるようになるかもしれません。
2つ目が、製品群の拡大。日立はこの7年前にあたる2009年に、車両マネジメントサービスを展開するカナダ発のWenco International Mining Systemsという企業を買収し、建機の稼働を管理するプラットフォームを持っていました。このプラットフォーム上で管理する車両のバリエーションを増やし、データをより多く集めることが意図だったのではないかと思います。
Pentaho
時期:2015年6月
地域:アメリカ
創業:2004年
事業:オープンソースのBI(Business Intelligence)ソフト開発
ビッグデータの統合・分析・可視化を行うオープンソースのBIを開発。世界180ヶ国に1,200社以上の顧客を持つ。鉄道・自動車・送配電線といったさまざまな場所から吸い上げたデータからインサイトを得るBiアプリケーションとなる。
oXya
時期:2015年2月
金額:不明
地域:フランス
創業:1998年
事業:法人向け基幹業務システムのクラウド基盤
こちらの記事によると、oXyaはSAPの基幹システムを導入する顧客に対してクラウド基盤を提供する企業です。日立はこの買収によって、SAPとの関係性を深めることになり、翌年2016年の11月にSAP HANAのクラウドサービスを発表。顧客がデータを活用するための基盤整備を進めました。
各M&A案件の位置付けとBig Picture
これらの買収案件が、それぞれどういう意図で、日立が描くBig Pictureの中でどのような位置付けになるのか、少し頭の整理をしてみました。
(筆者作成)
まず、日立のM&Aは、地域が幅広いことが特徴です。マレーシア・オランダ・スイス・ドイツ・アメリカなど、アジア・欧州・米国とバランス良く分散しています。M&A時に、デジタル人材の獲得と事業エリアの拡大が重要視されているのではないかと思いました。
そのうえで、全体のストーリーとしては、【データを得ることができるハードウェア製品群を拡大する】→【ハードウェアからデータを効率的に収集できるロボットを導入する】or【ハードウェアからデータを効率的に収集するセンサーや制御ソフトを手に入れる】ことによって、オペレーションデータを収集します。
こうして集めたデータを蓄積・活用するシステムを導入するサポート(oXya)や、データ連携を容易にするサービス(Containership)などのデータインフラ部分にも投資しています。
そして、顧客がデータを解析したり分析したりする顧客インターフェース部分として、Fusio Tech・Pentahoなどに投資。また、こうした一連の工程で、ハイクオリティなデータ戦略コンサルティングを行うことができるGlobal Logicに1兆円を投資しています。
...というストーリーは、あくまで私が考えたストーリー仮説に過ぎませんが、それを踏まえたうえで、さらにもう一つ仮説を立ててみました。日立はプラットフォームを大きくしていく上で、ネクストピースとして2つの方向に今後投資していくのではないかと思います。
1つ目が、設計・シミュレーションソフトを開発する企業群です。IoTプラットフォームがオペレーションデータを集めていった場合、そのアウトプットは設備保全や生産性向上にとどまりません。その前行程である、設計・企画の高速化・最適化も狙っているはずです。Siemensが、2019年に連続して機械工学シミュレーションソフト・金属3Dプリンティングや先端材料の解析ソフトを開発する企業をM&Aしている例からも、こういった方向性はあり得るのではないでしょうか。
2つ目が、最近のトレンドでもあるノーコード開発サービスです。SiemensのMendix買収、GEのThingWorxとの提携事例からもわかるように、顧客が自由に使いたいアプリを開発できる、というのはプラットフォームの価値を上げる機能を持つと考えられます。
いかがでしたか?思い切った売却やM&Aを活用し、日立は本格的にデジタル化を進めています。次は、どんなスタートアップが日立にM&Aされることになるのでしょうか。あるいは、日立を超えるような巨大なIoTプラットフォーマーとなるスタートアップが登場してくるのでしょうか。
IDATEN Venturesは、こういった領域で投資・支援しているベンチャーキャピタルとして、引き続き邁進してまいります。
IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について
フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革・サステナビリティを支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。
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