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Writer's pictureShingo Sakamoto

ウォーターリスクマネジメント:事業活動に欠かせない水資源と向き合うスタートアップ

Updated: Mar 1, 2023

以前、IDATEN Ventures からカーボンアカウンティングに関する記事をリリースさせていただきました。企業がサプライチェーンの中で排出する温室効果ガスを、把握・報告・管理・オフセットする動きに注目が集まっている、という内容です。記事をリリースしてからすぐに読者の方々からいくつかコメントをいただき、まさにいま注目を集めているテーマであると実感しました。


一方で少し視点を広げてみると、企業が事業活動の中で考慮すべき環境トピックは、温室効果ガスだけではありません(例えば、太陽光・風・水・生態系などさまざま)。先日とある環境団体の方とお話させていただいた際、市場の関心が少し温室効果ガスに偏っている印象を受けていらっしゃいました。


そんな中、ちょうど2021年11月にWaterplanという水資源のリスク管理を行うスタートアップがシードラウンドで資金調達を行ったこともあり、今回は「水資源」に注目してみたいと思います。企業が水資源リスクをどのように把握し、対処していくべきか、というテーマです。


なお、水資源リスク管理の英訳であるWater Risk Management(ウォーターリスクマネジメント)という言葉は、日本語と英語では少し意味合いが異なるようですのでご注意ください。日本語で「ウォーターリスクマネジメント」と調べると、水上活動(サーフィンやボートなど)における事故リスクに関する内容が出てきますが、英語でWater Risk Managementと調べると、今回の記事のテーマに近い内容がヒットします。


(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%E5%B7%9D-%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%8F-%E9%95%B7%E6%9C%9F%E9%9C%B2%E5%87%BA-%E5%A4%A7%E6%B0%97-2951997/)



事業活動と水資源リスク

まず環境省が2019年に公開した水資源に関するレポートを参考に、企業がどのような水資源リスクを抱えているのか見てみましょう。


そのレポートによれば、企業は事業活動を通じて、水資源と「依存」「影響」2つの側面で関わっています。多くの場合、水資源の利用は事業活動に必須で、十分な量・質の水資源に依存しています。同時に、事業活動を通じた取水・排水は、水資源の量・質に影響を与えます。


続けて、この影響と依存という2つの側面から、企業は3つのリスクを抱えていると書かれています。物理的リスク、規制リスク、評判リスクの3つです。


例えば、物理リスクの一例として挙げられているのが、干ばつや水質汚染によって原料調達・生産工程に必要な水資源が確保できない、また洪水で工場の操業が停止する等。規制リスクは、政府や自治体の規制導入によって、企業が水資源を利用できなくなる、あるいは利用コストが上がる等。そして評判リスクは、その企業が活動する地域のコミュニティと水資源を巡って発生する緊張関係や対立、あるいはブランド・イメージの毀損等が挙げられています。


こういった水資源リスクは、企業1社に影響を与えるだけでは済まないケースがほとんどです。例えば、同一河川から水資源を確保している企業らは、当該河川に有事の際はいずれもなんらかの影響を被る確率が高くなりますし、河川を共有していなくともサプライチェーン上流の企業が水資源リスクによって操業を停止すれば、中流・下流企業の原材料調達も滞ってしまいます。そのため、企業はサプライヤーが水資源リスクを抱えていないか把握し、場合によってはサプライヤーに対する指導や、発注先の分散などを検討しなくてはなりません。この点、まさに以前執筆したサプライチェーンリスクマネジメントと深く関わる領域になります。


特にサプライチェーンがグローバルに広がっている場合、世界規模で水資源リスクを把握する必要があります。WRI(World Resources Institute、世界資源研究所)が2019年に公表した水資源に関するデータを見ると、世界の水ストレスの偏りを見て取ることができます。(ここでいう水ストレスは、再生可能な地表水および地下水の供給量に対する取水量の割合を示しています。)下図のうち、色が濃くなればなるほど水資源が逼迫しており、薄くなればなるほど水資源に余裕がある、という見方をします。

(Source: https://wri.org/applications/aqueduct/water-risk-atlas/#/?advanced=false&basemap=hydro&indicator=bws_cat&lat=56.022948079627454&lng=-218.40820312500003&mapMode=view&month=1&opacity=0.5&ponderation=DEF&predefined=false&projection=absolute&scenario=optimistic&scope=baseline&timeScale=annual&year=baseline&zoom=3)




ウォーターリスクマネジメントスタートアップ


この章では、ウォーターリスクマネジメントソフトウェアを提供しているスタートアップを2社紹介します。冒頭に記載したWaterplanと、Divirodです。本当はもっとたくさんスタートアップが存在すると思いますが、今回はこの2社を取り上げます。


Waterplan

Waterplanは2020年にアメリカで創業されたスタートアップです。創業からこれまでに累計270万ドル(≒3億円)調達しています。最初の資金調達は2021年8月のプレシードラウンドで、Y Combinatorから出資を受けました。プレシードラウンドから3ヶ月後の2021年11月、Giant Venturesがリードするシードラウンドで、合計12の投資家を株主に迎えました。シードラウンドには、Climate Techの領域で積極的に投資活動を行うベンチャーキャピタルや個人投資家が参画しました。


Waterplanのミッションは、「企業の水資源リスクを軽減し、水の安全性が確保された世界への移行を加速させること」です。具体的には、顧客に対して、水資源に関するデータを自動的に収集・解析し、事業継続計画(BCP)の観点からレポートを作成するソフトウェアを提供します。


水資源データは、顧客関連施設(例えば、自社オフィス、自社工場、サプライヤー施設等)のセンサー経由や、衛星画像の解析によって収集します。収集したデータをもとに、水文学や気候モデルを用いてリスクシミュレーションを行い、顧客に与える損害金額を算出・提示します。また、Waterplanは、損害額と一緒に、顧客のオペレーションやサプライチェーンにおけるリスク対策の提示まで踏み込んで提供しています。


このような水資源リスクアセスメントをコンサルティング会社や調査会社に依頼して実施している企業はあると思いますが、それらの方法ではコストが高いうえ、実施回数も限られてしまいます。それに対して、Waterplanは「リアルタイム」でモニタリングを実施できるという強みを有しています。



Divirod

Divirodは2016年にアメリカで創業されたスタートアップです。2020年にシードラウンドで100万ドル(≒1億円)調達しています。Divirodは、Waterplanと同じく、水資源のリアルタイムデータを集めて解析することで、企業が抱える水資源リスクを把握できるようにしています。


公的機関が公表している水資源データを用いつつ、DiviSenseという独自のIoT機器からもデータを収集しています。この機器は、人工衛星から発せられてから地表や水面に反射して飛び交う信号を捉えます。Divirodは捉えた信号を機械学習で解析することで、湖や池の水分量を正確に把握することができるそうです。1つのDiviSenseで10エーカー(≒0.04km2)カバーできるそうですが、東京都の総面積が約630km2なので、約1万5,000個のDiviSenseを設置すると、理論上は東京都全体の水資源状況がリアルタイムでわかることになります。

(Source: https://www.divirod.com/)



なお、WaterplanやDivirodのように広範ではなく、水資源に関連する設備に特化してリスク管理を行うスタートアップもあります。例えば、2020年にアメリカで創業されたNEER。飲料水の配水管、下水道、雨水収集システムなど、水資源インフラに関するデータを集め、リスク状態の可視化、機械学習による予測、リスク回避プランの構築を行うクラウドソフトウェアを提供しています。




顧客が求めるものは何か?

カーボンアカウンティングのブログで、「(類似するスタートアップの間で)差がつくのは可視化・報告というよりも、管理・オフセットではないか?」という考察を結びに書きましたが、これと似たようなことがウォーターリスクマネジメントでも言えるのではないかと思います。


先進的な取り組みを日頃から行うイノベーター気質の企業であれば、水資源リスクの可視化さえできれば、あとは自社内でよしなにリスク対策を実施していくかもしれません。一方、社内にそういったリスク対策に関する知見がある人材がいない、あるいはコンサルティング会社に依頼するほど財政的余裕がない企業も当然いるはずです。


そう考えると、ウォーターリスクマネジメントにおいても、リスクの洗い出しにとどまらず、「対案の提示・実行」まで踏み込んでサービス提供できるスタートアップが選ばれていくと思われます。今回ご紹介したWaterplanは、水資源リスクに起因する損害金額の提示だけでなく、オペレーション・サプライチェーンの改善案を提示し、その施策フォローまで実行できる機能を実装しています。これはどんなサービスでもそうですが、最後まで顧客を迷わせないつくりこみの部分が大事だと思います。




なお、今回ご紹介したウォーターリスクマネジメントSaaSとは異なりますが、日本でもユニークなアプローチでウォーターリスクを軽減しようとしているスタートアップがあります。例えば、WOTAはその一例です。WOTAは、水処理の自動制御技術を用いたポータブル水再生処理プラント「WOTA BOX」を開発し、水道のない場所でも水が利用できる世界の実現を目指しています。独自制御技術によって、排水の98%を再利用可能にしているそうです。この他にも、フレンドマイクローブBioAlchemyなど、微生物を用いた排水処理を展開するスタートアップもあります。これから気候変動問題がさらに注目される中で、「水」にまつわるスタートアップもより増えてくるかもしれません。




今回はこれで以上になります。IDATEN Ventures がフォーカスする「ものづくり・ものはこび」は、例えば工場における取水・排水をもちろん、土地開拓に伴う森林伐採など、地球上のさまざまな資源と密接に関わり合って営まれています。そして、そのような事業活動の中で地球環境に与える影響は、企業リスクとして捉えられることが今後ますます多くなっていくと思います。〜アカウンティング、〜リスクマネジメントの分野に関心のある方は、ぜひIDATEN Venturesまで気軽にご連絡いただければと思います。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革・サステナビリティを支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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