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Writer's pictureKenta Adachi

シリーズAの相場観

Updated: Feb 23, 2023

本ブログは、2018年~2020年1月後半までに米国で発生したシリーズAに関してまとめられた crunchbase news の "The Distribution Of Series A Deal Size In The US" の日本語解説になります。


元記事


VCの世界はアルファベットだらけです。


VC (Venture Capital) というのもアルファベットだし、VCを運営するGP (General Partner、無限責任組合員) は LP (Limited Partner、有限責任組合員) からファンドへの出資金をスタートアップに投資していきます。


その成果は、TVPI (Total Value to Paid-In capital、投資倍率=払込出資金額に対する残余価値と累積分配金の合計額倍率) や DPI (Distributions to Paid-In capital、実現倍率=払込出資金額に対する累積分配金倍率)、あるいは IRR (Internal Rate of Return、内部収益率) などで評価されます。


さらに、VCと出資先スタートアップとの間では、CAC (Customer Acquisition Cost、カスタマー1人当たりの獲得費用) や LTV (Life Time Value、カスタマー1人当たりがもたらす収益総額) といった用語が飛び交います。


その上、シリーズAやシリーズBといった言葉が登場します。


これは投資ラウンドの総称であり、一般的には、最初の投資ラウンドが シードラウンド、次がシリーズAラウンド、その次がシリーズBラウンド、そしてその次がシリーズCラウンド、、、といった具合です。


最初の投資ラウンド、というのはまだ分かりやすいのですが、では、シリーズAというのは、いつからそう言うものなのでしょうか?


そして、そのシリーズAの相場観は、どれくらいなのでしょうか?


少し前は、機関投資家(VCなどのプロ投資家)による初めての投資ラウンドがシリーズAと言われていましたが、最近では、シードラウンドからVCも積極的に参加しています。


なお、かく言うIDATEN Venturesは、シードに特化したVCファンドです。


現在では、出資を受けるスタートアップ、出資を行う投資家、それぞれが「この投資ラウンドはシリーズAだね」と合意していれば、それがシリーズA、といった感じです。


とはいえ、そうして成り立っているシリーズAにも相場観はあります。


以下のグラフは、2018年から2020年1月後半にかけての、米国における2,539件の「シリーズA」とラベリングされた投資ラウンドにおける調達額別の件数分布です。


グラフにおいて、横軸はシリーズAラウンドにおける調達額 (単位はUSD million、感覚的には日本円で「億円」)で、縦軸は該当する投資ラウンドの件数です。


興味深いことに、めいめいがいわば勝手にラベリングしたシリーズAにも関わらず、一定の傾向値が現れています。


シリーズAで調達される金額の大半が $ 9 million 以下で、全体の中央値は $8.6 million です。


一方、グラフの右端、$ 20 million 超の調達も件数が多いですが、このうち32件については $100 million 以上の調達となっており、その多くをバイオテック企業が占めています。その他、自動運転なども含まれています。


研究開発などで必要資金が大きな事業を展開するスタートアップは、シリーズAから大型の資金調達となっていることが伺えます。


では、都市別にみてみると、何か特徴があるでしょうか。

まずは、ニューヨークを見てみましょう。


中央値は$ 10 million となっており、US全体よりはやや単価が大きいものの、分布そのものに大きな差異はなさそうです。


次に、サンフランシスコはどうでしょうか。


上記グラフには、いわゆるシリコンバレーを含んでいませんが、中央値はニューヨークと同じく$10 millionで、あまり差異はなさそうです。あえて言えば、$9 - 10 millionが突出していることでしょうか。


最後に、ライフサイエンスや、いわゆる「ディープテック」のメッカであるボストンやケンブリッジを見てみましょう。


やはり、一番右端の $20 million 以上の件数が突出しています。


シリーズAでいったいどれだけの資金を調達すべきか、あらゆるシチュエーションにおいて通用する答えはありませんが、その前段階の資金調達において、MVP (Minimum Viable Product、最低限の実用性を担保した最小限のプロダクト) のリリース、あるいは PMF (Product Market Fit、提供するプロダクトが市場ニーズに合致していることを確認できている状態) まで到達できているかどうかによって、シリーズAで調達すべき金額や、その調達金額で検証すべきポイントは変わってきます。


ただ、最近は一般的に、プレシードラウンド(あるいはエンジェルラウンド)で調達した資金でMVPを達成し、シードラウンドで調達した資金でPMFを達成し、シリーズAで調達する資金で成長を加速、つまりスケーラブルでリピータブルなビジネスモデルの開発を押し進める、と言われています。


これはあくまで米国であり、感覚的に日本はそれぞれワンステップずれている、つまり、シードラウンドでMVP、シリーズAでPMFを狙い、シリーズBで成長を加速、という印象ですが、それでも、やはり各ラウンドにおいてしっかりした事業の進捗がなければ、資金調達を続けることは難しいでしょう。


開発するものがソフトウェアなのかハードウェアなのかといった観点、主戦場とするマーケットの環境(人件費やオフィス賃料など)の観点などからも、調達すべき金額などは変わってきます。


また、調達資金による確保するランウェイを18カ月にするのか、24カ月にするのか、といった観点も影響してきます。いずれにしても、事業における次のマイルストンを達成できるまでのランウェイは最低限、確保すべきです。


そうしたもろもろを考慮して、必要資金よりも少なすぎず多すぎない、そうした資金調達を丁寧に続けていくことが、スタートアップには必要かと思います。


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