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Writer's pictureKenta Adachi

ニュージーランドにおけるスタートアップの可能性

Updated: Jun 16, 2021

先日、ニュージーランド大使館や日本商工会議所、JETROが主催するニュージーランドビジネスセミナーにおいて、日本で初めてニュージーランドスタートアップに出資したVCとして、ニュージーランドにおけるスタートアップの可能性について講演しました。

その内容を抜粋して、ここでもお知らせします。

この記事が、ニュージーランドと日本の何らかの架け橋になれば嬉しいです。


まず、ニュージーランドと聞いて、何を思い浮かべられますでしょうか?


こういった質問をしますと、「ラグビーが強い、羊が多そう、自然が豊か」といった声を聞くことが多いです。実際、自然はものすごく豊かで、とても素晴らしいところです。あまりにも自然が雄大なため、映画のロケ地としても有名です。


では、世界で最も起業・事業をやりやすい国はどこでしょう?

と質問されたら、どんな国を思い浮かべるでしょうか?


米国でしょうか、シンガポールでしょうか、日本でしょうか。


いろいろな評価軸はあるかと思いますが、世界銀行によれば、実は、世界で最も起業・事業をやりやすい国はニュージーランドなのです(全190ヶ国のランキングで、2位にシンガポール、3位にデンマークと続きます。米国は6位、日本は34位でした。世界銀行が発行するDoing Business 2018に基づきます)


制度面や税制面のみならず、教育や政治、そうしたものの総合ランキングです。

でも、起業・事業がやりやすいからといって、スタートアップに適しているかどうかは、一概には言えません。


起業=スタートアップ、ではないことは皆さんご存知の通りです。


起業の大半は、いわゆるスタンダードビジネスにつながります。スタンダードビジネスとは、経営に過度な負荷はかけず(身の丈に合っていない大きな赤字を掘らず)、着実に事業を成長させ、その事業利益をもって会社継続させていく方法です(これを「スモールビジネス」と言う人もいますが、それだと語感的にずっとスモールな感じがします。実際にはスモールではないケースもありますので、ここではスモールビジネスと言わずスタンダードビジネスと呼ぶことにします)


スタンダードビジネスとは異なり、スタートアップとは「短期間に急成長を目指す組織体」であり、時には身の丈にあっていない資金調達を行い、経営に過度な負荷をかけ、そのかわり、誰もがアッと言う間に事業を立ち上げる方法です。


そういったスタートアップに適しているかどうかは、起業・事業のしやすさはもちろん大切ですが、スタートアップエコシステムが整っているかどうか、という点も非常に大切です。


では、スタートアップエコシステムが充実しているかどうかを、どう測るべきでしょうか。


私は、次の2点で測ることができると考えています。

①ビジネスを進めていく上で必要な経営資源「ヒト、モノ、カネ、情報」がそろっているか

②かつそれらが、スタートアップという、スタンダードビジネスよりもリスクが大きい領域に振り向けられているかどうか


では、これらの点についてニュージーランドがどうなっているか、見ていきましょう。


まずヒトの面について、どの事業領域であれ短期間での急成長を実現させるには、ソフトウェアをうまく活用することが必要です。となると、ソフトウェアエンジニアを採用しやすいかどうか、という点が、一つ重要なポイントになってきます。


さて、スタートアップのメッカであるシリコンバレーにほど近いサンフランシスコにおけるソフトウェアエンジニアの平均給与はどれくらいでしょうか?

Source: glassdoor


USD137Kになります。これをUSD/JPY=110(2018年12月30日時点のレート)で換算すると、約1,500万円です。しかもこれは基本給に過ぎず、その他の諸手当を含めると、かなりの金額になってきます。これは、シリコンバレーでも同様の給与水準であり、かなり大変な採用競争になります。


では、同じようにニュージーランドのソフトウェアエンジニアの平均給与を見てみましょう。

Source: glassdoor


NZD73Kになります。これをNZD/JPY=74(2018年12月30日時点のレート)で換算すると、約540万円です。サンフランシスコ/シリコンバレーの約1/3であり、当地に比べると採用観点からすればとても助かります。


でも、いくら安くソフトウェアエンジニアを採用できたとしても、優秀でなければ意味がないのでは?という疑問があがると思います。仰る通りです。


ところが実は、ニュージーランドは優れたソフトウェアエンジニアが多くいるのです。その理由が、少し上記でも述べた、映画です。


ニュージーランドは著名な映画ロケ地ですが、単に撮影するだけではなく、3DCGをフル活用した編集にも強いのです。実際、The Lord of the Rings(ロードオブザリング)やNARNIA(ナルニア国物語)はニュージーランドの地で撮影・編集されており、AVATAR(アバター)の編集もニュージーランドで行われています。


このレベルの3DCGを実現させるには高度なプログラミング技術やデジタル機材の知識が必要であり、そういったレベルの高いエンジニアが指導者となって、次々と優秀なエンジニアが生まれているのが、今のニュージーランドなのです。


こうしたエンジニアのうち、中にももちろんシリコンバレーに行く人もいますが、ニュージーランドの雄大な自然の中で働きたい、という人も少なくなく、なおかつスタートアップで働きたい、という人も少なくないのです。

この意味で、実はヒトの面でニュージーランドは非常にアドバンテージがある国です。


では、モノの面はどうでしょうか。

モノといっても、ここでは制度や税制、環境面について考えてみましょう。それらについては前述の通り、世界銀行がニュージーランドこそ世界一、と言っています。


加えて、ニュージーランドは自国だけではビジネス規模が小さいという考えを初めから持っており、積極的なグローバル展開を事業立ち上げ時から構想している起業家がほとんどです。その上、もちろん英語ベースの国であるため、グローバル展開における言語的な障壁もありません。さらに、NZTE(New Zealand Trade & Enterprise)といった政府機関が積極的に国際的なスタートアップ支援を展開しており、政府VCも活発なサポートをしております。この意味で、モノの面でもニュージーランドはアドバンテージがあると言えるでしょう。


カネの面は後で述べますので、次に、情報の面を見てみましょう。ここで情報というのは、スタートアップを成功させるノウハウ、という観点で考えてみます。


実はニュージーランドからは既に大型スタートアップがいくつか誕生しており、スタートアップ成功ノウハウが蓄積されているのです。

例えば、クラウド会計SaaSを展開するXERO(上場済み、2018年12月30日時点の時価総額は約4,500億円)が有名です。このためニュージーランドはXEROの成功事例を背景にSaaSスタートアップが多く成功しており、Pushpay(決済SaaS)、Telogis(物流SaaS、Verizonが買収済み、現在はVerizon Connectというサービス名称で展開)、Anaplan(計画策定SaaS)、Diligent(ガバナンスSaaS)などがユニコーン企業と言われています。

さらには、宇宙産業を手掛けるRocket Lab、エネルギー産業を手掛けるLanzaTech、乳業を手掛けるa2など、伝統的なニュージーランドらしい産業からもユニコーンが次々と誕生しています。


これら成功事例がどんどん生まれており、スタートアップを生み出していくにあたって必要な情報の観点でも、ニュージーランドはアドバンテージがあると言えそうです。


最後に、カネの面について述べたいと思います。

下表はニュージーランドのアーリーステージ企業への出資額および出資件数の推移です。

Source: PwC


2011年と2012年こそ対前年割れとなっていますでしたが、その他は基本的には右肩上がりの伸びを示しており、どんどんと起業資金を獲得しやすい環境となってきております。

というのも、ニュージーランドはキャピタルゲインが非課税の税制となっており、そのためエンジェル投資が非常に盛んです。かつてスタートアップを成功させた先輩起業家のみならず、大企業のエグゼクティブなども積極的に自国スタートアップへのエンジェル投資を行っているということです。もちろん、先ほど述べた政府系の支援も活発です。


次に、アーリーステージに限らず、資金調達をしたニュージーランドスタートアップの件数を見てみましょう。下表をご覧ください。

Source: PwC


上表でStart-Up、Seed、Proof of concept、とあるのがおよそアーリーステージまでのスタートアップを示し、Early Expansionがいわゆるミドルステージ、Expansionがいわゆるレイターステージを示していますが、アーリーステージまでの件数に比べて、時間が経ってもミドルステージ・レイターステージの件数が増えていないことが分かります。

もちろんアーリーステージの全てが次のステージに行くことは難しい面がありますが、それにしても少ないです。

これについてNZTEなどにヒアリングしましたところ「ニュージーランドは、アーリーステージについてはエンジェル投資などが充実しており資金調達がやりやすいが、ミドル・レイターを支える大型のVCが不足している」ということでした。


よって、カネの面では、まだニュージーランドは大きなアドバンテージがある、と言える状況ではないかもしれませんが、裏を返せば、外国人投資家にとっては、ニュージーランド自国マネーでPoCまで達したスタートアップがいよいよ本格的な国際展開をしていこう、というタイミングで出資を展開していきやすい、よい環境とも言えそうです。


実際、Peter Thielもニュージーランドのスタートアップ環境について、

the current community as a ‘utopia‘ for VCs and investors around the world

と評価しています。


ちなみにIDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)は、Nyriadという、GPUアクセラレートしたストレージソリューションを開発しているニュージーランドスタートアップに出資をしておりますが、これからますます盛り上がってきそうなニュージーランドスタートアップ界への楽しみは、どんどん大きくなっています。


皆さんもぜひ、ご期待ください。

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