top of page
Search
Writer's pictureShingo Sakamoto

ヒューマノイドロボットブームとスタートアップ

直近約1年の間に、ヒューマノイドロボットを開発するスタートアップの資金調達ニュースが続いています。ヒューマノイドロボットの原型らしきものができたのは1960年代で、(何を以て実用化とするかも難しいところですが)実用化が期待されては実用化には至らず、という歴史が続いてきました。そんなヒューマノイドロボットが「今度こそ」と大きな期待を呼んでいる現状を踏まえ、そもそもヒューマノイドロボットとは何か、各国の歴史や政策、なぜいまヒューマノイドロボットが注目されているのか、どのようなスタートアップがどのようなロボットを開発しているのか、考察していきます。


なお、為替レートは2024年8月14日時点のものを利用しています。

(Source: https://pixabay.com/illustrations/ai-generated-robot-technology-8623019/)


ヒューマノイドロボットとは

「ヒューマノイドロボット」という単語から、人々が思い浮かべるのは、どのようなロボットでしょうか?筆者の場合、真っ先に思い浮かべるのは映画「スターウォーズ」に登場する「C-3PO」という全身金色のロボットです。


C-3POについて調べると、公式サイトには「...礼儀作法と外交儀礼・慣習に詳しいドロイド」とあります。この「ドロイド(droid)」という単語は、我々も聞き馴染みのある「アンドロイド(android)」の略称ですが、androidはギリシャ語の「andro(ヒト)」に「-oid(のようなもの)」がくっついた合成語で、「ヒトのようなもの」が転じてandroidは人造人間を指すことが多いようです。


一方、ヒューマノイド(humanoid)も「human(ヒト)」に「-oid(のようなもの」がくっついて「ヒトのようなもの」という意味ではandroidと同じですが、こちらは必ずしも人造人間だけでなく、ヒトのような形態の生物にも用いられることがあります。長くなってしましましたが、改めてまとめると、ヒト型ロボットを指す際に、「ヒューマノイドロボット」か「アンドロイド」という単語を使うことが一般的です。


C-3POの他にも、ヒューマノイドロボットとして有名なキャラクターとして、「鉄腕アトム」「Dr.スランプ アラレちゃん」「マトリックス」等が挙げられます。




上記の3キャラクターはヒトと同じように二足歩行を行うためわかりやすいですが、では「ペッパーくん」はどうでしょうか?先ほどのキャラクターと異なるのは、ペッパーくんは足の部分が車輪になっている点です。こちらによると、元々は二足歩行機能を想定されていましたが、12時間以上の連続稼働時間を優先した結果、車輪型になったそうです。一般的に、このような車輪型のタイプは「車輪型ヒューマノイドロボット」と呼称され、「ヒューマノイドロボット」単体だと二足歩行型を指す場合が多い印象です。


日本におけるヒューマノイドロボットの歴史

この章では、なぜヒューマノイドロボットが求められるようになってきたのか探るために、歴史を振り返っていこうと思います。主にこちらのレポートを参考にしています。


まず、同レポートは、日本が元々ヒューマノイドロボット先進国だった、という意見から始まります。ヒューマノイドロボットが、「ターミネーター」のように「人に危害を及ぼすロボット」として描かれやすい欧米に比べ、「鉄腕アトム」「Dr, スランプ アラレちゃん」のように「人を助けるロボット」として描かれやすかった日本では、いち早くからヒューマノイドロボットの研究が進められてきたと言われています。


世界で最初に発表されたヒューマノイドロボットは、早稲田大学の加藤教授グループが1973年に完成させた「WABOT-1」(WAseda roBOT)とされています。この「WABOT-1」は簡単な日本語の会話、耳・目による対象物の認識および距離・方向の測定、二足歩行による移動、両手を使った物体の把握ができ、「一歳半年程度の幼児の能力に匹敵する」と言われています。また、約10年後の1984年には、さらにレベルアップした「WABOT-2」が開発され、今度は楽譜を目で認識して両手両足で電子オルガンを演奏できるヒューマノイドロボットに進化しました。「WABOT-2」はそれだけでなく、人間の歌声に合わせて伴奏することができ、これによってロボットが人間に協力して働いてくれる(協働)未来への期待が大きく高まりました。


1990年代には情報ネットワーク技術の発展に伴い、通産省(現・経産省)が中心となって「アールキューブ研究会」(Real-time Remote Robotics = R-Cubed)を組成し、ヒューマノイドロボットの開発を日本政府が後押しし始めました。実はそれより以前から、独自路線でヒューマノイドロボットを開発していたのがHONDAで、のちの「ASIMO」の原型となる「P2」というロボットを1996年12月に発表しました。「P2」は「WABOT」に比べると大きく人間味が増したロボットで、宇宙飛行士のような外見をしています。身長182cm・体重210kgで、外部電源不要で歩行することができます。


「P2」のクオリティが高かったために、通産省も「P2」をベースに国家プロジェクトとしてのヒューマノイドロボット開発を進めることになりました。それがHumanoid Robotics Project(通称「HRP」)で、東京大学の井上教授をリーダーとし、産業技術総合研究所(産総研)・カワタロボティクスと共同で5年間の研究開発が行われました。


世界的に見ても、当時の日本は政府がヒューマノイドロボットの開発に最も積極的な国の1つで、各国のヒューマノイドロボット研究の参考となる存在だったようです。その証拠に、2006年にフランス国立科学センターは、前述の「HRP」の最終成果として2003年に開発された「HRP-2」というヒューマノイドロボットを購入し、その応用研究としてソフトウェア開発を進めたそうです。なお、フランスではこの前後でヒューマノイドロボットに対する関心が高まっており、2005年に創業されたAldebaran Roboticsは、「Nao」という小型ヒューマノイドロボットを開発しました。同社は2012年にソフトバンクに買収され、現在はソフトバンクロボティクスとなって「ペッパー」開発にも貢献しました。


ところで、こうしてヒューマノイドロボットの「研究」が着々と進む一方で、先に「社会実装」が進んだのは、より専門的な動作に特化した産業用ロボットでした。日本では、1970年代に米国から産業ロボットが輸入されると、急速な経済成長・工業化を背景に、次々と産業用ロボットの開発が進められました。今でも世界的に有名な日本の産業用ロボットメーカーが何社もあります。ちなみに、JIS規格において産業用ロボットは「産業オートメーション用途に用いるため、位置が固定又は移動し、3軸以上がプログラム可能で、自動制御され、再プログラム可能な多用途マニピュレータ」と定義されていますが、ヒューマノイドロボットも、主に工場内で産業オートメーションとして用いられる場合は「産業用ロボット」と括ることもできなくはなさそうです。一方、「汎用的な知能を備え、汎用的な動作を行うことができる」という本来の性質を考えると、工場内に限らず、繰り返し性が低く、毎回少しずつ違う動作が求められるシーンで利用可能なヒューマノイドロボットは、狭義の産業用ロボットとは明らかに異なると考えられます。産業用ロボットの「社会実装」が進んだ結果、1985年時点で、世界の産業用ロボットの稼働台数のうち約70%は日本の工場で稼働していた、と言われています。


このような背景もあり、日本でもヒューマノイドロボットの研究開発は進んでいたものの、産業用ロボットのように「実際に人間社会に経済的便益をもたらす存在」というよりも、「ロボットなのに歩ける、歩ける・走れる・踊れる面白い存在」という認知を脱却しきれないまま、時が流れていったような印象です。


アメリカの動き

2000年代まで歩行型ロボットの開発にそれほど積極的ではなかったアメリカが、よりモビリティ性能の高い歩行型ロボットに本腰を入れ始めたのは、2011年の東日本大震災時に発生した福島第一原子力発電所の事故がきっかけと言われています。事故の調査として原子炉建屋に送り込まれたのは、掃除ロボット「ルンバ」で知られるiRobot社の「PackBot」というロボットでしたが、このロボットが非常に苦戦したことが背景として挙げられます。


PackBotは小型キャタピラーのような形で、カメラ付きアームが1本装備されています。瓦礫が散乱する原子炉建屋内では、階段を上り下りする、ドアを自ら開ける、写真を撮る、放射線濃度を測定する、等の複雑な動作が求められましたが、PackBotには難しいタスクでした。ただ、写真を撮る、放射線濃度を測定する、ドアを開ける、等の特定の動作ができるロボットをたくさん送り込むことも現実的ではなかったため、1台でマルチタスクをこなすことができ、かつ、悪条件の地面を歩行できるロボットとして、ヒューマノイドロボットの必要性が強く認識されたそうです。


その認識が形となって現れたのが、DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency, 国防高等研究計画局)の資金提供を受けてBoston Dynamics(1996年にマサチューセッツ工科大学のMarc Raibert教授が設立した企業)が開発した「Atlas robot」というヒューマノイドロボットです。

(Source: https://bostondynamics.com/atlas/)


その後もDARPAは積極的にロボット開発コンテストに資金提供し、国内外から技術を持つ企業や研究者を呼び込んでアメリカに集積させていきました。ちなみに、民間ではGoogleが積極的で、2013年にBoston Dynamics、SCHAFT(日本の東京大学情報システム工学研究室発の企業)を含むロボット新興企業を続々と買収しています。


2015年にDARPAが主催した、ロボットが災害現場で活躍できるか競うコンテストでは、参加者に「Atlas robot」が無償で貸与され、参加者は追加のソフトウェア開発を行うことで、いかにマルチタスクがこなせるようになるか競いました。このことからも示唆されるように、この時期、アメリカにおけるヒューマノイドロボット開発は、どちらかというとハードウェアよりもソフトウェア開発に重きが置かれる形で進んでいきました。


このことは、HONDAでヒューマノイドロボットを研究してきた吉池氏がインタビューで、「日本ではロボットの研究者たちを中心に個別に進められていたヒューマノイド研究だが、アメリカではコンピュータサイエンティストの取り込みが行われたという違いがある。そのため日本ではヒューマノイドをどう応用するかという部分で少し遅れをとっている」とコメントしていることからも窺うことができます。


同氏は、DARPAが中心となってソフトウェアを活用したヒューマノイドロボット研究が進んでいったこの時期(2010年代半ば)を「第2次ヒューマノイド研究ブーム」と表現しています。そして、筆者が本レポートを執筆する理由にもなっていますが、まさに足元「第3次ヒューマノイド研究ブーム」が起きていると言えます。


中国の動き

最終章でご紹介しますが、ヒューマノイドロボットメーカーを調べていくと、驚くほど中国企業が多いことがわかります。ホームページがない、水面下で開発を進めている企業もありそうなので、実際に確認できている数以上にあるかもしれません。


中国におけるヒューマノイドロボットブームを考えるうえで1つの鍵となるのが、2023年10月に発表された「ヒューマノイドロボットのイノベーション発展に関する指導意見」(人形機器人創新発展指導意見)です。指導意見とは、中国政府が特定の政策分野や社会課題に対して方向性や対策を示す公式文書で、本指導意見は工業・情報化部から発表されています。指導意見の概要を大まかにまとめてみます。


  • 2025年までに、「大脳・小脳・四肢」において技術的ブレイクスルーを遂げ、世界最先端レベルのヒューマノイドロボットを量産化する。

  • そのために、2~3社の世界的影響力を持つ大企業と、複数の専門技術に特化した中小企業から構成される産業発展集積エリアを国内にいくつか形成し、ロボットの新たなモデル・担うことができる業務の模索をスピーディに行う。

  • 実用化のステップとして、大きく3段階を想定する。

    • ①特殊環境における応用で、特に悪条件・危険環境における作業

    • ②3C(コンピュータ・通信・家電)製品や自動車等の(中国における)重点製造業分野でツール操作・任務遂行可能なヒューマノイドロボットの開発および、ロボット稼働を前提とした生産ライン・工場の建設

    • ③医療や家事代行等の民生分野におけるヒューマノイドロボット応用


かなり具体的に、かつ、計画的に国家的にバックアップしていくことが明言されました。


なお、指導意見の中で書かれている「大脳・小脳・四肢」というのは非常にわかりやすくヒューマノイドロボットに必要なコンポーネントを定義した表現です。


  • 大脳は「知能的な働き」全般を担う役割を持ち、目や耳を使って、外界で起こったことやロボット内部で起こったことを把握・分析して、身体全体の働きに命令を与えます。この役割は、AI基盤モデルが中心的に利用される、と指導意見の中に書かれています。

  • 小脳は「運動の制御」が主な役割です。大脳から出された運動命令を、身体中の筋肉に伝わる具体的な指令に細分化します。この小脳における情報処理を模したものがレザバーコンピューティングというモデルで、時系列情報処理に適した機械学習のアプローチです。

  • 四肢は文字通り身体部分ですが、特に関節の制御がポイントになります。


中国ではこの指導意見より前から、深刻な労働力不足を受けて国家施策が講じられてきましたが、その対応策の1つがロボットで、「産業用ロボット」や、産業オートメーション以外で人間のサポートを行う「サービスロボット」の開発・普及に積極投資が行われてきました。こちらの記事によると、2022年に導入された産業用ロボットの半数は中国が占めており、またサービスロボットも生産台数が600万台を超えているそうです。


国家的にロボット投資を続けてきた中国ですが、2023年11月の指導意見が出たことで、今後さらに中国の動きが活発化することが予想されます。


なぜいまヒューマノイドロボットが注目されているか?

前述の指導意見の中で、「大脳・小脳・四肢」というコンポーネントの話がありましたが、ここ1年ほどの間で急速にヒューマノイドロボットブームが起きているのは、主に「大脳」が関係していると言えます。


より具体的には、IDATEN Ventures が公開するいくつかのブログ(例えば、「生成AIで加速する製造業×AR」、「AI-Driven Supplier Management」等)でも取り上げてきた、ChatGPTをはじめとするAIの進化が関わっています。


ChatGPTはチャット形式でユーザーが知りたい内容を文章の形で「生成」してくれるため、「生成AI技術」であると言われますが、その内部で動いているモデルは「生成AIモデル」ではなく、「大規模言語モデル「事前学習モデル」「基盤モデル」と表現されることが一般的です。わざわざ「大規模」と接頭語がつくのは、これまでのAI開発が、人工知能といえども、特定のシーンで高い推論を行うために特化して学習が行われてきた(相対的に「小規模」な学習)ためです。大規模言語モデルは、「シーンに関係なく、とにかく大量の」テキスト情報をモデルに学習させた結果、人間が見てもおかしくないレベルで知能的な返答をするようになった、という部分に革新性があります。このように、「事前」に大量の「学習」をしたAIの登場によって、シーンごとのAI開発の必要性がなくなってきているのではないか?ということで、「事前学習モデル」あるいは「基盤モデル」と呼ばれることもあります。


そして、基盤モデルは必ずしも言語に限らず、動画像・音声でも同様のことが起きています。OpenAIは、ChatGPT以外に「DALL-E」(画像モデル)・Whisper(音声モデル)・Sora(動画モデル)をリリースしていますが、このようにさまざまな形態で情報の入出力ができることを「マルチモーダル(Multi-Modal)」といいます。2022年末にChatGPTがリリースされてから現在まで約1.5年経過していますが、続々とリリースされるAIモデルの精度の高さから、マルチモーダルAIが実現されるのは時間の問題なのではないか、と期待が高まっています。


高精度なマルチモーダルAIが実現すると、特定のシーンに特化した学習を行わなくても、人間と自然なコミュニケーションをとる、画像から物体を認識する、音声を認識して返答する、という振る舞いができるようになります。これはまさに「大脳」に相当する部分のレベルが一気に上がることになり、それが「今度こそ人間と同じようなヒューマノイドロボットが実現できるのではないか」期待につながり、今回のブームが起きていると考えられます。



世界のスタートアップ

最終章では、世界のスタートアップをご紹介していきます。設立年が新しい順に並べます。


Robot Era

地 域:中国

設 立:2023年

資 金:1億元(≒21億円)(直近は2024年1月に1億元調達)

出資者:Lenovo・中国のVC

概 要:

  • 精華大学のインキュベーションプログラムの中で設立されたスタートアップで、「EmbodiedAI」(身体化知能、機械と物理世界の相互作用に基づいて独自に学習し進化できる知能体)の開発を謳っている

  • ハードウェア面では、自社開発の高トルクジョイントを用いた自由度の高い手足の動作が強みで、減速機・モータ・駆動装置等の基幹部品は全て自社開発。ソフトウェア面では、大規模言語モデルが利用されている。


Figure AI

地 域:アメリカ

設 立:2022年

資 金:8億5,400万ドル(≒1,260億円)(2024年2月に6億7,500万ドル(≒1,000億円)調達)

出資者:NVIDIA・Microsoft・OpenAI Startup Fund・アメリカのVC

概 要:

  • 同社のホームページによると、Figure AIは人型ロボットの器用さと最先端AIの知能を組み合わせて、単機能ロボットを超えた汎用知能ロボットを、製造・物流・倉庫・小売に展開していきたい、と書かれている。

  • 創業者兼CEOのBrett Adcock氏は、eVTOLを開発するArcher Aviation(2021年9月NYSEにSPAC上場)の創業者で、さらにその前はVatteryという人材マッチングサービスを立ち上げ、Adecoに売却した経験を持つ。

  • CTOのJerry Platt氏はInstitute for Human and Machine Cognition(IHMC)で主任研究員を務めていた経験を持ち、ヒューマノイドロボット研究に20年以上取り組んできた。

  • ホームページに公開されているマスタープランによると、Figure AIは大きく3つの市場にロボットを投入していくことを考えている。その3つとは、(1)肉体労働現場、(2)高齢者の在宅介護、(3)宇宙探査である。



cobot

地 域:アメリカ

設 立:2022年

資 金:1億4,000万ドル(≒200億円)(直近は2024年4月に1億ドル(≒147億円)調達)

出資者:アメリカのVC(Sequia Capital, Khosla Ventures等)

概 要:

  • Amazonで倉庫にロボットを大規模導入してきたBrad Porterが元Amazonや元Microsoftのメンバーとともに設立。

  • 同社は、倉庫・工場・病院・学校・空港・スタジアム等で人間と協働するロボット(Collaborative Robot)を開発しているが、肝心のロボットについてイメージを外部公開していない。厳しく情報管理を行っていると思われる。

  • ホームページには、「自然でシームレスな対話方法を提供する大規模言語モデルの可能性に深く触発され、大きな進歩を遂げた」とあり、イメージは公開されていないものの、ヒューマノイドロボットを開発している可能性が高い。


Yuequan Bionics

地 域:中国

設 立:2022年

資 金:1,000万ドル(≒15億円)(直近は2024年4月に1,000万ドル調達)

出資者:中国のVC

概 要:

  • 同社はバイオニックロボット技術関連の特許を200件以上取得している。特に、手足の器用な動作を実現するために「Bionic tension-compression body」(生体引張圧縮体)理論に基づいて技術開発を行っている。この理論は、人間の骨格のような硬組織は主に圧縮を受け、靭帯・筋肉等の軟組織は主に張力がかかっているという原理をベースにした理論である。従来のロボットは剛体構造だったが、Yuequan Bionicは人間の骨格・筋肉の構造を模倣しており、高い可動性と柔軟性を備えている点が特徴。

  • 2023年7月時点のニュースによると、その時点で同社は、足部プレート・足首関節・膝関節等の下肢部分に加え、化粧品を塗る、コーヒーをかき混ぜる、スマートフォン画面をスワイプする等、27の動作を行うことのできる繊細なロボットハンドの開発に成功したとのこと。

  • プレスリリースによると、ヒューマノイドロボット自体の開発も計画しつつ、ヒューマノイドロボットに必要なコアコンポーネントの開発に集中している。


Accelerated Evolution

地 域:中国

設立:2022年

資 金:非公開(直近は2024年4月に金額非公開の資金調達を実施)

出資者:中国のVC

概 要:

  • 清華大学で長年ヒューマノイドロボットの研究開発を行ってきたCheng Hao氏が2023年に設立。

  • ヒューマノイドロボットに必要な技術コンポーネントは大きく3つ(汎用知能・運動小脳・ロボット本体)あるが、後者2つを支えるのがモーションコントロール技術で、同社はモーション制御アルゴリズムを簡単にチューニングできるプラットフォームを開発した。これまでは、ロボット仕様が変更されるたびにモーション制御アルゴリズムを再構築する必要があったが、このプラットフォームを用いると、パラメータを少し調整するだけでロボットの仕様変更に適応できるという。


LimX Dynamics

地 域:中国

設 立:2022年

資 金:2,750万ドル(≒40億円)(直近は2024年7月に金額非公開の資金調達を実施)

出資者:Lenovo・中国のVC

概 要:

  • 同社は四輪型ヒューマノイドロボットの開発からスタートし、2023年9月には最初の製品をリリースした。こちらのプレスリリースによると、同社は「車輪型は歩行型よりも機動性が高い」として優先開発したとのこと。なお、同社によると、歩行型が実用化されるためには、高精度の地形認識・モーションコントロール機能が必要になるという。

  • 一方、同社の創業者であるZhang Wei氏は長年二足歩行ロボットの研究を行ってきた人物で、CL-1という二足歩行ロボットの開発も進めている。同氏によると、現段階の二足歩行ロボットは決められた環境では使用できるが、コストが高すぎるという課題を抱えているとのこと。

  • 同社の技術ページを見ると、同社は独自開発のROS(Realtime Operating System)を採用しており、ノードの分散運用によってコンピューティング負荷を下げた高効率なシステムを実現している様子。


NEURA Robotics

地 域:ドイツ

設 立:2019年

資 金:1億6,500万ドル(≒243億円)(直近は2023年7月に1,500万ユーロ(≒25億円)調達

出資者:ヨーロッパ(特にドイツ)のVC・アメリカのVC

概 要:

  • 同社は創業から3年間、単腕型ロボット「MAiRA」の開発を進め、2022年にヒューマノイドロボット「4NE-1」を発表。繊細なモーション制御に強みがあり、感度0.1Nの力トルクセンサが強みで、これによってヒューマノイドロボットは歩行中のバランスが安定し、スムーズな移動が可能になるという。

  • ホームページには、「ロボットはスマートフォンのようなものであるべきである。電卓、電話、ゲーム機、クレジットカードとして機能するデバイスと同じように、物理世界で想像できるあらゆるタスクや活動を引き継ぐことができるロボットを構築する必要がある」という創業者の言葉が紹介されている。

  • タッチレス人間検出センサーが搭載されており、自動車と同じように衝突回避ができる。


Benmo Technology(Direct Drive Technology)

地 域:中国

設 立:2018年

資 金:1億元(≒21億円)(直近は2024年3月に1億元を調達)

出資者:中国のVC・Lenovo

概 要:

  • 設立当初から、減速機を使用しないダイレクトドライブモータ(ハルバッハ配列モータ)の研究開発を行ってきた。

  • 家庭用・産業用ロボットにダイレクトドライブモータを供給し、コンパクトで長寿命なロボットの実現に貢献してきたが、2023年に二輪型ロボットをリリース、2024年には汎用型ヒューマノイドロボットの開発部門を立ち上げた。


Unitree Robotics

地 域:中国

設 立:2016年

資 金:1億6,600万ドル(≒245億円)(直近は2024年2月に10億元を調達)

出資者:中国のVC・美団(映画チケット販売、口コミサイト等の生活総合プラットフォームを運営)

概 要:

  • 同社のヒューマノイドロボット「H1」の紹介ページには、「中国初の走れる汎用ヒューマノイドロボット」と書かれている。

  • 3D LiDARと深度カメラを搭載し、リアルタイムでパノラマスキャン(360°の奥行き認識)を実現可能

  • 同社は2023年12月にH1の販売を開始。ユーザーによる2次開発が必要なモデルで、主に大学や企業による研究開発用途が想定されている。価格は日本円で1,580万円となっており、今後のヒューマノイドロボットのベンチマークとなった。


1X(Halodi Robotics)

地 域:ノルウェー

設 立:2014年

資 金:1億3,600万ドル(≒200億円)(直近は2024年1月に約9,100万ユーロ(≒148億円)調達)

出資者:北欧のVC・アメリカのVC・OpenAI Startup Fund

概 要:

  • 同社が公開する「A Gearless Future」というポストには、同社がギアによる重量増加・俊敏性低下に課題感を持ち、高トルクのギアレスモータを開発した背景が紹介されている。

  • 2022年の春に、ノルウェーのSunnaas Hospitalという病院で、ヒューマノイドロボット「EVE」が医療従事者のアシスタントとして物流業務を行うテストが実施された。

  • ホームページや各リリースには、同社が人間と協働するにあたって「安全性」を重視しており、人間に危害を加えないようなモータシステムを開発したと紹介されている。どちらかというと、ソフトウェアよりもモータを中心とする制御システムのところに強みがある印象。

  • ヒューマノイドロボット「NEO」は、2024年3月19日に開催されたNVIDIAの基調講演に登場し、NVIDIAのプラットフォーム上で開発されていることが明かされた。

  • セキュリティ、物流、製造、機械操作、家事を行うことが期待されている



UBTECH Robotics

地 域:中国

設 立:2012年

資 金:2023年12月に香港証券取引所に上場、時価総額360億香港ドル(≒6,810億円)

出資者:中国のVC・Hier・Tencent

概 要:

  • 2020年の売上高(Revenue)が約1億ドル(≒147億円)、EBITDAがマイナス8,000万ドル(≒118億円)。

  • 教育(AI Education Solution)・ヘルスケア(Smart Elderly Care Solution)・サービス(General Service Smart Robotic Products and Solutions)・物流(Logistics Smart Robotic Products and Solution)・消費者(Consumer-grade Smart Hardware)の5つの事業ユニットを保有している。

  • 教育ユニットは、主に学校や研究機関向けに、2次開発可能なロボット・ソフトウェアキットを提供。ヘルスケアユニットは高齢者向けに家庭やシニアホームで利用されるサービスロボット(スマートチェア・配膳ロボット・キャビネットデリバリーロボット等)を提供している。物流ユニットは、倉庫内の搬送ロボット・ラストワンマイル配送ロボットを提供。消費者ユニットでは、ペットケア・コミュニケーションロボットを提供。

  • 同社は主に消費者ユニットでの利用を想定し、「Walker」というヒューマノイドロボットを開発。36個の高性能サーボジョイントを搭載し、マルチモーダルな情報の入出力が可能。

  • こちらの記事によると、すでに10台以上販売しており、同社は販売可能レベルなヒューマノイドロボットを量産できる世界でも数少ない企業として紹介されている。香港市場上場に際して、「Walker」が上場を祝賀する鐘を鳴らし、話題になった。


Leju Robot

地 域:中国

設 立:2016年

資 金:2億6,000万元(≒54億円)(直近は2019年に2億5,000万元を調達)

出資者:中国のVC・Tencent

概 要:

  • V-SLAM、深度カメラが搭載され、地図生成・経路計画・動作認識等を行うことができる「Roban」というヒューマノイドロボットを開発。マルチモーダルな情報の入出力が可能。

  • 2次開発しやすいように、センサーがオプション化されており、温度センサー・タッチセンサー・光センサー・火センサー・衝突センサー等、ユーザーの希望に合わせてRobanの機能を拡張することができる。


Agility Robotics

地 域:アメリカ

設 立:2015年

資 金:1億8,000万ドル(≒265億円)(直近は2022年4月に1億5,000万ドル)

出資者:アメリカのVC・Amazon・TDK・SONY・台湾の政府系ファンド(ITRI)

概 要:

  • 物流、製造現場における利用に特化してつくられたヒューマノイドロボット。同社はMMR(Mobile Manipulation Robot)と表現する。

  • 同社が2023年9月に公表したところによると、オレゴン州に年間1万台以上生産できる工場を建設中で、その工場内でDigitが働くことになるという。ロボットを生産する工場でロボットが働く、ということになりそう。同リリースによると、最初の納入は2024年に開始され、一般市場販売は2025年になるとのこと。初期用途は、倉庫・配送センター内のバルクマテリアルハンドリングを想定している。2023年末には、Amazonとの協業が発表された。


Pal Robotics

地 域:スペイン

設 立:2008年

資 金:非公開

出資者:非公開

概 要:

  • ヒューマノイドロボット「TALOS」のシミュレーションモデルはオープンソースとなっている。

  • 主に重工業分野での利用が想定されており、アームを完全に伸ばした状態でのペイロードが6kgと耐荷重が大きいのが特徴。2台のi7(Intel)チップ、全関節にフルトルクセンサー、RGB-Dカメラが搭載されている。


この他にもヒューマノイドロボットを開発する企業はいくつもありそうですが、今回は以上とします。各社の技術もさることながら、出資者の顔ぶれも興味深く、例えば中国のヒューマノイドロボットメーカーには、Lenovo・Tencent等の事業会社が株主となっているケースがいくつもあります。また、OpenAIが運営するVC「OpenAI Startup Fund」もいくつかのヒューマノイドロボットに中国外で出資しています。また、ヒューマノイドロボットの活用先として、Amazonの名前が何社からも挙がったのは、同社の自動倉庫戦略の1ピースとしてヒューマノイドロボットが入っていることの表れかもしれません。


改めて調査を通じて感じたのは、「汎用」「専用」という言葉の定義の重要性です。人間は「汎用性」の理想像としてよく挙げられますが、例えば、専門職の人間は「汎用なのか」「専用なのか」と考えると難しいように、「汎用」ヒューマノイドロボットの「汎用性」は人によって解釈が異なりそうです。ヒューマノイドロボットが実現してもシーンによって少しずつ求められる要件が違うのだろうか、本当に汎用のヒューマノイドロボットが実現したらそのロボットはどのような働き方をするのだろうか、という問いは、簡単なようで難しく、今後より深く考えていくことが必要そうです。

IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革・サステナビリティを支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


お問い合わせは、こちらからお願いします。


今回の記事のようなIDATENブログの更新をタイムリーにお知りになりたい場合は、下記フォームからぜひ IDATEN Letters に登録をいただければ幸いです。


Comments


bottom of page