間もなく2018年も終わろうとしています。
このタイミグで、ふとしたことからブロックチェーンを振り返ることがあったので、その考察を書いてみました。
まずは、Google Trendで、キーワードとしての blockchain の人気度を調べてみたのが下図です。
ピーク値は、2018年1月14~20日であり、そこにかけてあがってきたトレンドが、以後、落ち続けています。
その先行指標?として、上記とほぼ同じ挙動をしめしているのが、ビットコイン価格を示した下図(こちらもGoogleによる情報)になります。
2017年12月15日につけた最高値、約220万円をピークに下落を続けています。そして、そのピークから1ヵ月遅れて、blockchainというキーワード検索がピークを迎え、以後、落ち続けているのです。
結局、ビットコインがblockchainという技術の全てだったのでしょうか。
もちろん、そんなことはありません。
ビットコインをはじめとするクリプトカレンシーは、あくまでblockchainを用いたアプリケーションの1つであり、その1つのアプリケーションの調子が悪いからといって、blockchain全てが使いものにならない、ということにはならないでしょう。
では、blockchainはどこにその可能性があるのか、そこを考えていきたいと思います。
ご存知の通り、blockchainの目的は「全てをできる限り分権化すること、権力から遮断すること」にあります。
この目的が立ち上がるそもそもの要因として、何かしら限定的な存在、つまり政府や企業が権力を集中的に保持しており、そこで各種の問題が沸き起こってきた、という事実があげられます。
blockchainは、こういった問題を解決しうる手段として、この世に生まれたのでした。
ではそもそもなぜ、各種問題をもたらした政府や企業という組織体が、この世の中に誕生し、なおかつ今も存在し続けているのでしょうか。
その問いに応える2つの理論が、
・取引費用理論
・不完備契約理論
と言われています。
取引費用理論とは、政府や企業といったものが存在せず、自由市場だけが存在している時に発生する取引費用に比べて、政府や企業を打ち立てて取引をしたほうが発生する取引費用が少なくて済む、だから政府や企業は存在する、という経済合理性からみた理論です。
不完備契約理論とは、将来に発生しうる全ての事象に完璧に対応できる完備契約を作成することは(少なくとも現時点では)不可能であり、契約に定めていないことについては、どこかが責任をもって処理する必要があり、そのために政府や企業が存在する、という法務合理性からみた理論です。
いずれももっともな理論であり、結局のところ、これまで登場したblockchainアプリケーションは、その誕生目的である「全てをできる限り分権化すること」つまりは「全てをできる限り、中央集権的な政府や企業から切り離していくこと」を実現しようとするあまり、上記の取引費用理論や、不完備契約理論に反する部分があり、結局、期待したほど広まることがなかった、ということだと私はとらえています。
なお、このあたりの話は「プラットフォームの経済学 機械は人と企業の未来をどう変える?」に、分かりやすく記述されいます。
例として、これまで登場したblockchainアプリケーションの代表的な2つを見てみましょう。
【クリプトカレンシー】
ビットコインを始めとするデジタル貨幣ですが、記録に時間を要するなど、結局、取引費用が現存貨幣に比べてかかってしまう点がある、ということもありました(取引費用理論の観点からの失敗)
さらには、そもそも、マイナーが特定の地域に集中(権力分散の失敗)し、結局は一部の地域の影響力が大きなものとなってしまい、blockchainが果たそうとした目的を現時点では実現しかねています。
【スマートコントラクト】
こちらについては、クリプトカレンシーのような権力分散の失敗は発生しないかもしれませんが、一方で、やはりどうしても完備契約を作成することがそもそもできず、クリティカルな契約を扱うにまでは至ることができていません(不完備契約理論の観点からの失敗)
インターネットが、ブラウザやemailといったキラーアプリケーションのおかげで爆発的に普及したことを思えば、まだblockchainにはそれに該当するようなキラーアプリケーションが成り立っておらず、という状況です。
ベンチャーキャピタリストとしても、いくつかblockchain企業を見てきましたが、それこそキーワードとしてのblockchainが盛り上げっている頃、blockchainならではのキラーアプリケーションというインパクトあるものを開発できていると感じことができない企業が少なくなく、インターネットでできていることを、取引費用理論や不完備契約理論に反して、わざわざblockchainで行っても苦しいのでは?という印象をよく受けました。
(補足:その中でも、これはblockchainならではだな、と思う技術にも出会うことができましたし、実際、そういった企業に出資もしました)
さて本題ですが、そんなblockchainは、これからどこへ向かっていくのでしょうか。blockchainならではのキラーアプリケーションとは、どういったものがありそうでしょうか。
それを考えるにあたり、blockchainの三大機能を振り返ってみたいと思います。
①記録の保存あるいは保存履歴の共有
②価値の移転
③契約の自動執行
これが、blockchainの三大機能と言われています。
このあたりは、「実践ブロックチェーン・ビジネス」に詳しく書かれています。
blochchainは確かにこれら三つの機能を備えていますが、私は、この三つともを同時に完了しようとする点に(現時点では)無理があるのでは、と思っています。
「①記録の保存あるいは保存履歴の共有」について、やろうと思えばインターネットでもできうることです。これをblockchainで実現しようとしたとたんに、長いチェーンに記録を続ける必要があり、短くはない時間を要してしまいます。それを回避する方法もありますが、だとしても、インターネットとの違いを明確に打ち出しにくいのでは、と感じています。
「③契約の自動執行」について、これもやろうと思えばインターネットでもできうることです。もちろん、そもそもコードに契約執行条件を書き込んでおくblockchainのほうが、契約を自動執行する、という点においては優位かと思いますが、前述の通りそもそも現時点では完備契約の作成は非常に困難で、合法的なハッキングなどが、むしろインターネットより起こりやすい状況にもなりかねず、blockchainとしての特長として打ち出すのは、時期尚早ではないか、と感じています。
残ったのが「②価値の移転」になり、これは「情報交換のためのネットワーク」と言われているインターネットが苦手とする領域かな、と個人的に思っており、blockchainのキラーアプリケーションとして最初に立ち上がる領域だろう、と思っています。
とはいえ、この応用例としてクリプトカレンシーも入ってきますが、前述の通り、クリプトカレンシーにはこのメリットを打ち消すほどのデメリットも存在しています。
ではどうすればいいのか?
私は、blockchainの機能をアンバンドルし、「②価値の移転」にフォーカスしたものを立ち上げることで、それがblockchainのキラーアプリケーションになるのでは、と考えています。
価値の移転のためには、
・ユニークでセキュアなID認証(発信側も受信側も「なりすまし」などがないことを証明できること、インターネットが苦手でblockchainが得意な領域)
・複製・改ざん不可能なデータ構造(データが受け渡しされる過程で複製や改ざんをされていないことを証明できること、インターネットが苦手でblockchainが得意な領域)
が必要となります。
かみ砕いて言いますと、発信側と受信側(ヒトである必要はなく、モノであってもよい)が特定され、かつその両者の間で受け渡されるデータに変化がないことが証明されれば、そのデータは価値そのものと同義である、ということです。
あれもこれもblockchainで実現する、ではなく、既存技術に対して優位性がある上記ポイントだけにフォーカスしたblockchain技術を開発し、それを用いたサービスを展開することで、インターネットにはできなかったblockchainならではのキラーアプリケーションが生まれるのでは、と考えています。
これがうまくいけば、第三者(プラットフォームを運営する特定企業など)に依存しないセキュリティの確立も可能となります。なぜかというと、このblockchain方式で受け渡しされたデータは発信側と受信側以外には、閲覧・入手不可能となるためです。
IDATEN Venturesで出資したblockchain企業も、まさにこの分野を手掛けている先であり、これが、blockchainのゆくえの1つではないかと、期待しています。
Kommentare