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Writer's pictureShingo Sakamoto

変化が起こりつつある産業用コンピュータ市場の概観

このたび、産業用コンピュータについて調査してみました。


産業用途に特化した性能を持つ産業用コンピュータは、我々が日頃利用する民生用コンピュータとはまた違う、少し専門性の高い市場になっていますが、近年スマートファクトリー・スマートホーム・ロボット等、さまざまなシーンにおけるIoTの普及に伴って、産業用コンピュータ市場にも注目が集まっています。本レポートでは、そもそも産業用コンピュータとは何か、なぜ注目が集まっているか、OSとの関係性をまとめていきたいと思います。


なお、為替レートは、2024年2月29日時点のものを参考にしています。


産業用コンピュータとは


産業用コンピュータは、【信頼性】・【耐環境性】・【長期供給】の3点において、民生用コンピュータと異なると言われています。


【信頼性】

  • 例えば、民生用コンピュータは家庭・オフィスでの利用が中心で、AC100Vに対応していれば十分ですが、工場で利用されるような産業用コンピュータはDC24Vにも対応している必要があります。

  • また、ECC(Error-Correcting Code)メモリの搭載が求められる場合もあります。ECCメモリとは、データがCPUに転送される際やメモリに格納される際にエラーを自動検出・修正することができるメモリで、非ECCメモリに比べて高価です。

  • あるいは、RAID(Redundant Array of Independent Disks)対応が求められる場合もあります。RAIDとは、複数のハードディスクを1つの論理ユニットとして扱う技術で、データの可用性や耐障害性を上げるために採用されます。RAIDは、専用のRAIDコントローラを利用するハードウェアベース、オペレーティングシステムの機能を利用するソフトウェアベース、どちらのアプローチでも実現可能ですが、ハードウェアベースだと比較的高価になり、ソフトウェアベースだとCPUリソースが割かれることになります。

  • ちなみに、近年コンピュータが処理すべきデータ量が急増する中、既存のRAIDだとあまりにもコンピュータパフォーマンスが低下してしまうという課題があります。IDATEN Ventures 出資先のNyriadは、CPUの代わりにGPUを用いて高い耐障害性とパフォーマンスを両立することに成功しています。


【耐環境性】

  • 産業用コンピュータは、産業特有の厳しい環境に耐えられるような機能・性能を備えている必要があります。例えば、耐衝撃性、耐振動性、粉塵対応、動作温度範囲等がキーワードになります。民生用コンピュータの場合は、ちょっとした衝撃や水濡れで壊れてしまうことがありますが、産業用コンピュータはそう簡単に壊れるわけにはいきません。


【長期供給】

  • 産業用コンピュータは、1〜2年で買い替えるものではなく、5〜20年以上という長期利用が前提となります。民生用コンピュータは頻繁にアップデートが行われますが、産業用コンピュータはアップデートがそれほど頻繁にあるわけでなく、またメーカーの長期サポートに頼りながら長きにわたって利用することが前提とされています。


なお、上記3つポイントにも関連しますが、産業用コンピュータには高い「RAS機能」が必要であると言われています。RASは「Reliability」「Availability」「Serviceability」の略称で、保守と診断を容易にするための機能を指します。具体的には、電源断検出・メモリパリティチェック・ウォッチドッグタイマー・温度上昇検知・ファン停止検出等が代表例です。

  • 電源断検出 電源が突然失われた場合に、システムがその事態を検知し、適切な処置を行う機能。

  • メモリパリティチェック メモリ中のデータが正確であるかを確認する機能。エラーが見つかった場合には、警告を出す。

  • ウォッチドッグタイマー システムがフリーズした場合に、自動的にシステムを再起動するためのタイマー機能。

  • 温度上昇検知 コンピュータ内部の温度が一定以上に上がると、警告を出して対処を促す機能。

  • ファン停止検出 冷却ファンが停止した場合に、それを検知し警告を出す機能。


産業用コンピュータが高価になってしまうのは、民生用と同じ仕様の製品でも、民生品よりも高品質な部品が採用されているためです。製造現場やインフラの制御システムで使われることを想定すると長時間ノンストップで稼働することが必要で、自然とスペックに対する要求レベルも高くなります。また、長期供給が前提となることもあり、仕様書が細かく、カスタマーサポートも手厚くなります。なお、カスタマーサポートという観点では、トラブルが発生した際に、再発防止につながる調査・解析サービスが必須です。




産業用コンピュータの歴史


1980年代以前の産業用コンピュータと言えば、PCタイプではなくボードタイプがほとんどで、ラックに組み込んで使われていたそうです。ボードタイプのコンピュータには、モトローラやインテルのCPUが用いられていました。ちなみに、今でもこういったボードタイプのコンピュータは数多く存在します。


その後、1980〜1990年代にはCPUの性能向上に伴って、PCタイプが普及していきます。インテルのX86は当時のCPUとしては圧倒的なスピードだったそうです。OSにもWindows系が登場し、そのあたりから汎用PCを改良した産業用PCが販売されるようになりました。


同時に、そこまで複雑な制御が必要ではない場合は、PLC(Programable Logic Controller)が主流となっていきました。PLCには、専用のファームウェアが組み込まれていることが多く、必ずしもOSは搭載されていませんが、代わりに専用のPLC開発ツールが販売されており、開発者は比較的容易にプログラムを書くことができました。


なお、ここで産業用PCとPLCの違いを簡単に整理しておきます。

  • PLCは主に制御と自動化に特化した機能を持つよう設計されており、専用のプログラミング言語で開発されます。特定の用途においては、処理が早く、価格も安い点が特徴です。

  • 産業用PCは、もちろん制御と自動化を担うこともできますが、それだけではなく、通常のPLCにできない高度なデータ処理・分析が可能です。産業用PC上で多様なアプリケーションを動作させることができ、産業用PCはPLCのソフトウェアを動かし、PLCとしての機能を持たせたものをソフトPLCというそうです。多機能な分、高価になります。


PLCは安価である一方、そのままではデータ分析のような高度な処理にはできません。だからといって、既存のPLCを高価な産業用PCに置き換えるかというと、データ分析によって得られるメリットとコストのバランスを考えると、そう簡単にはいきません。そこで、IDATEN Ventures 出資先のVisual Factoriesは、PLCに後付けするだけでデータ収集・分析ができるIoTキットとクラウドサービスをセットで提供し、「PLCはそのままに、設備の見える化や状態分析等、もう少し高度なアプリケーションを構築したい」というニーズに応えています。同社のサービスは、欧州やアメリカを中心に導入が進んでいます。



産業用コンピュータ市場に起こる変化


産業用コンピュータというキーワードから得られる情報はそれほど多くなく、この市場で起きている変化を体系的に理解する難しさを感じます。そこで、ChatGPTを使って糸口を見つけていきたいと思います。以下のような質問をしてみました。

ちなみに、今回「産業用コンピュータは、近年どういった市場としてみられていますか?」と質問しましたが、こういう時、「産業用コンピュータは、近年注目されている市場ですか?」と質問すると、ほとんどの場合、何かしらの理由をつけて、注目されている理由を挙げ始めるので、できる限りフラットな質問をするとよいと思います。


この中で、特に「確かにそうかもしれない」と思えるのが、「6. セキュリティ」と「7. グリーンエネルギーとの関連」です。


まず、「6. セキュリティ」についてもう少し深掘りしてみます。

日立グループが公開している「制御システムに対するセキュリティ脅威の動向」という資料で、2010年代にグローバルで制御システムがサイバー攻撃を受けた事例が紹介されていますが、確かに2016年以降(ピンク色の部分)はそれ以前に比べ案件が増加傾向にあるようです。


また、産業サイバーセキュリティ研究会の資料によると、制御システムは、長期運用と可用性重視のためオフィスITシステム同等のセキュリティ対応が困難であると指摘されています。


また、こちらは一般社団法人電子情報技術産業協会半導体部会が発表した資料ですが、半導体製造業界としても、生産性向上やサプライチェーン最適化の観点から制御システムの高度化が進む中で、顧客から要求される工場セキュリティの水準は上がってきているそうです



では、次に「7. グリーンエネルギーとの関連」はいかがでしょうか?


このテーマについて考えるにあたって、「SHIFT事業」というキーワードが思い当たります。SHIFTは、Support for High-efficiency Installations for Facilities with Targetsの略で、環境省が推進する、工場・事業場における先導的な脱炭素化推進事業となります。


工場における脱炭素化を進めるアプローチはさまざまありますが、その1つが、より高精度な制御を行うことです。例えば、SHIFT事業の一例として、「コンプレッサの運転台数自動制御による運転効率向上」や、「総合照明自動制御システム」「空調機の断続運転制御システム」等が紹介されています。


これらの制御システムに、どの程度高度な産業用コンピュータが用いられているのかはわかりませんが、工場全体のさらなる省エネ化を進めるためには、制御の最適化が必要であることは確かです。制御の最適化を達成するためには、単純な条件分岐処理だけでは難しく、より多くのデータを収集し、素早く解析を行ったうえで、自動制御を行う必要があります。その分、制御システムに求められる要求も高くなります。



こうして考えると、今後ますますエッジで制御の最適化を進めることの重要性は増していき、収集・処理するデータの種類・量の増加に応じて、産業用コンピュータに求められるレベルも上がっていくと思われます。また、エッジとクラウドのコラボレーションが進むにつれてシステム全体のセキュリティリスクは高まり、セキュリティ対策の重要性は高まっていく可能性があります。



産業用コンピュータとOS


産業用コンピュータを語るうえで欠かせないのが、OSです。特定の動作を制御する役割を担うPLCにも、OSっぽいものが搭載される場合があるものの、PLCはあくまで決まった処理を司るだけで、OSが果たす役割は産業用コンピュータほど大きくありません。


一方、複数のセンサーやカメラから収集したデータに基づいてロボットアームやCNCマシンの制御を行うような場合、制御に求められる複雑性・スピード・正確性に応じて、搭載すべきOSも変わってきます。


まず、リアルタイムな制御が求められるシーンの場合、RTOSというOSが利用されることが多いようです。RTOSはReal Time Operating Systemの略で、優先度の高いタスクを期限内に確実に完了させることを保証するOSです。


私たちが日頃使う汎用コンピュータに搭載されている汎用OSは、複数のプログラムやアプリケーションを平等に扱い、CPUを効率的に利用できるよう順番を調整しますが、特定のプログラムやアプリケーションがいつCPUを支えるかは保証されていません。例えると、レストランでお客さんが順番待ちをしているイメージです。空いていればすぐに着席できますが、混雑時はいつ食事を開始できるか見通しが立てづらくなります。

一方、RTOSは病院の救急室のようなイメージです。患者が運ばれてくると、病状の重さによって処置が行われます。重症の患者は軽症の患者よりも先に処置を受けることが保証されます。このように、RTOSは、優先度が高いタスクには他のタスクよりも先にCPUリソースを割当て、確実に実行されることを保証します。


RTOSはマイコンや非力なCPUで用いられることが多く、それに合わせてプログラムサイズがコンパクトに抑えられているのが特徴です。なお、RTOSというのはOSのカテゴリ名称であり、個別名称ではありません。RTOSの一例として、以下のような種類があります。



他にも多くのRTOSが存在します。以下は2008〜2019年の各シェアを表にしたものです。


先ほどご紹介した4つのRTOSはいずれもトップ10に入っていますが、これらのRTOSが過去10年の間に、いずれもクラウド・自動車部品・半導体業界の大手に買収されていることは、非常に興味深いところです。


なお、クラウド大手(Amazon Web Service、Microsoft Azure、Google Could Platform)はそれぞれIoTに力を入れており、顧客がクラウドからエッジまでエンドツーエンドでIoTソリューションを構築できるようにしています。参考までに、Microsoft AzureのIoTプラットフォームのアーキテクチャをご紹介します。


上図において、RTOSが用いられているのは一番左側のDevices内部です。ここが産業用コンピュータのカバー範囲になります。Devicesが収集したデータはAzure IoT Edgeというサービスを介して、ローカル処理されるものとクラウドに送られるものが分けられます。その右側にあるAzure IoT Hubがクラウドゲートウェイとなっており、右側のクラウドエリアにつながるゲートになっています。Hot Pathはリアルタイムなデータ分析、Warm Pathは遅延が許容できるデータ分析、Cold Pathはバッチ処理的なデータ分析が行われます。分析されたデータは、最も右側のManagement & business Integrationエリアに流れていき、ユーザーは、BIツール上でデータを可視化したり、APIを通じてウェブやモバイル上に表示したり、ワークフローを構築したり、さまざまな処理を定義することができます。


なお、こういったアーキテクチャを、Azure以外のコンポーネントをオリジナルでつなぎ合わせる形で構築することもできると思いますが、そこでネックとなるのがセキュリティです。AzureにはIoTプラットフォーム全体のセキュリティを確保するための各種セキュリティサービスがあり、ユーザーは効率的にセキュリティ管理を行うことができます。



また、こちらはRTOSではありませんが、Microsoftが提供するIoTデバイス用OSとして支持されているのが、Windows 10/11 IoTです。2015年にデスクトップコンピュータ向けOSであるWindows 10に合わせてリリースされ、2021年にはWindows 11 IoTにアップグレードされました。こちらは、RTOSに比べてより多くのリソースを必要とする一方、多機能で豊富なAPIが備わっています。利用例としては、タッチスクリーン搭載の自動販売機やATM、デジタルサイネージ、医療機器、スマートホームデバイス、POSシステム等が挙げられます。


こちらに、Windows 10/11 IoTの利用に求められるハードウェアの最低要件が紹介されています。これらは、前述のRTOSが用いられることの多いマイコンに比べると相対的にハイスペック(とはいえ汎用コンピュータとしてはローエンド)であり、価格は数倍〜数百倍高くなる場合があります。


     

産業用コンピュータの主要プレイヤー


産業用コンピュータを提供する企業は、もしかしたら耳にしたことがない人も多いのでは?と思うほど、知る人ぞ知る企業が多い印象です。


先に特徴をご紹介すると、この業界には台湾企業が多く並びます。産業用コンピュータの分野で台湾企業が目立つのは、TSMCをはじめ、世界的に半導体関連企業が集積していることが1つの要因として考えられます。


また、台湾は歴史的にOEM(Original Equipment Manufacturer)・ODM(Original Design Manufacturer)ビジネスが強く、顧客の要望に合わせて柔軟にカスタマイズする能力が高い企業が多いのかもしれません。というのも、産業用コンピュータは民生用コンピュータと異なり、限られたラインナップの自社製品を販売するというよりは、業界ごと・顧客ごとにカスタマイズして製品を提供する場合が多く、受託的な要素も含まれるためです。

以下、産業用コンピュータ分野のリーディングカンパニーをいくつかリストアップしてみました。上場している企業は時価総額、売上高、EBITDAもご紹介し、特に株価が伸びているところは株価推移も合わせてご紹介します。


1983年に台湾で設立された企業です。台湾証券取引所に上場しており、時価総額は約3,000億台湾ドル(≒1兆3900億円)です。

生産拠点は日本・台湾・中国に1ヶ所ずつあり、支店を含めると世界26ヶ国95都市に拠点を構え、ハードウェア・組込みソフトウェアは合計で2,000種類を超えるラインナップになっているそうです。こちらが産業用コンピュータの中でも特に組み込み関連製品のカタログですが、業界ごと・スペックごとに非常に細かく製品が分かれています。

そんなAdvantechですが、2000年代以降の株価推移を見てみると、浮き沈みはあるものの、全体として右肩上がりになっており、市場からの高い期待が窺えます。




業績も伸びており、直近2022年度は、売上高が約690億台湾ドル(≒3,270億円)で前年比+17.27%、EBITDAが約130億台湾ドル(≒620億円)で前年比+25.27%となっています。


1995年に台湾で設立された企業です。台湾証券取引所に上場しています。時価総額は約139億台湾ドル(≒660億円)、直近の売上高118億台湾ドル(≒560億円)、EBITDA8億2,000万台湾ドル(≒39億円)となっています。


ADLINKの株価はAdvantechに比べると起伏が激しいものの、全体で見ると2010年代以降は上昇傾向にはあるようです。



1992年に台湾で設立された企業です。台湾証券取引所に上場しています。時価総額277億台湾ドル(≒1,300億円)、直近の売上高84億台湾ドル(≒390億円)、EBITDA13億台湾ドル(≒60億円)です。


1959年にドイツで設立された企業です。フランクフルト証券取引所に上場しています。時価総額14億ユーロ(≒2,2700億円)、直近の売上高11億ユーロ(≒1,800億円)、EBITDA4,200万ユーロ(≒68億円)です。


1993年にアメリカで設立された企業です。NASDAQに上場しています。時価総額457億ドル(≒6兆8,500億円)、直近の売上高71億ドル(≒1,060億円)、EBITDA8億ドル(≒120億円)です。

ここ3年で売上が急激に伸びており、2021年に36億ドル、2022年に52億ドル、2023年に71億ドルを記録しています。株価も急騰しています。


1997年に台湾で設立された企業です。台湾証券取引所に上場しています。時価総額149億台湾ドル(≒700億円)、直近の売上高80億台湾ドル(≒380億円)、EBITDA14億台湾ドル(≒66億円)です。

2020年あたりから株価が急伸しており、高い期待が窺えます。


MSC Technologiesという社名で1982年にドイツで設立され、その後2013年にAvnetというアメリカ企業に買収されました。


Avnet自体は1921年にアメリカで設立された企業で、NADAQに上場しています。時価総額は42億ドル(≒6,300億円)、直近の売上高270億ドル(≒4兆円)、EBITDA13億ドル(≒1,900億円)です。


1993年に台湾で設立された企業です。Portwellは上場していません。そのため、業績は非公開です。ただ、こちらのサイトをみると、過去約20年の間、リーマンショックがあった2009年と子会社売却があった2015年を除いて毎年増収増益となっており、成長を続けていることが窺えます。


同社は産業用マザーボードのシェアが世界第3位で、アジアだけでなく欧米にも拠点を持ちグローバルに展開しています。また、実は日本語情報が非常に充実しており、産業用コンピュータについて調べると多くの記事がヒットします。


また、少し本論とずれてしまいますが、産業用コンピュータは専門性が高く、なかなか各製品の違いを把握するのが難しいという課題がある中、Portwellのサイトは見やすくする工夫がなされていました。具体的には、同社のサイトには「製品を比較する」という機能が備わっており、気になる製品をそこにプールしていくと、「CPU」「イーサネット」「チップセット」等の観点から任意の製品同士を比較できます。それほど難しい機能ではないと思いますが、ユーザー目線に立った良い機能だと思いました。


1979年にオーストリアで設立された企業です。2017年にABBグループというスイス企業に買収されました。ABBはスイス証券取引所に上場する巨大企業で、産業用コンピュータに限らず、電力・重工業関連事業も手掛けるコングロマリットです。そういった意味では、これまでにご紹介した他社(産業用コンピュータがメイン事業の企業)と比較すべきではない気もしますが、一応ご紹介いたします。


なお、ABBグループが産業用コンピュータに力を入れているのは、同社がファナックや安川電機と並ぶ世界的な産業ロボットメーカーの一角に位置付けているためです。


時価総額は758億スイスフラン(≒13兆円)、直近の売上高は290億ドル(≒4兆3,200億円)、EBITDAは45億ドル(≒6,700億円)です。



こういった大企業がひしめく分野で、スタートアップが大きくなっていくのはそう簡単ではありません。そういった背景もあり、機器制御をハード・ソフトどちらも手掛けるスタートアップの情報を見つけるのは非常に難しいですが、可能な範囲でご紹介してみます。


2012年にドイツで設立されたスタートアップです。設立から現在までに累計で3,600万ドル(≒54億円)調達しています。同社は、産業用ロボットの動作をなめらかにするモーションコントロールのチップと、制御伸び調整を行うソフトウェアを提供しています。ロボットメーカーが顧客となっているようです。


モーションコントロールという意味では、2023年4月にSkylla Technologies(MIT発スタートアップ)がモベンシスという日系企業に買収されたのが記憶に新しいニュースです。プレスリリースによると、Skyllaの自律移動ロボット制御技術を用いると、複数のPLCやロボットコントローラを用いることなく、1台の産業用コンピュータでロボットの走行制御やFA機器の制御が可能になるそうです。


こちらは2021年にドイツで設立されたスタートアップです。設立から現在までに1,000万ドル(≒15億円)調達しています。同社は、産業用コンピュータを提供しているのではなく、産業用コンピュータを用いたDevOps(Development + Operationの造語で、ソフトウェアの世界ではよく利用される、開発・運用を効率的に管理する)ソフトウェアを展開しています。主にPLCに焦点を当て、PLCのデジタルツイン(どこに、どのようなPLCが用いられているかクラウドシミュレーションモデル上で把握する)、PLCコードのバージョン管理(クラウド上でPLCコードを、誰が、いつ、どのように更新したか把握する)、クラウド統合開発環境(クラウド上でPLCコードを簡単にコーディングする)等の機能が含まれたソフトウェアです。



スタートアップが取り組むテーマとしては、安価で非力なチップでも複雑な処理が実現できるようなAIモデルやプラットフォームの開発の方がメジャーかもしれません。例えば、日本では、エッジデバイス上で画像解析等のAIを活用するプラットフォームを開発するIdeiや、IDATEN Ventures 出資先で、エッジ上で少量データから高精度な推論が実現できるレザバーコンピューティング技術を扱うQuantumCoreも該当します。



産業用コンピュータは、一度に概観を把握するにはあまりにもカバー範囲が広く、専門性も高い分野ではありますが、サイバーセキュリティ、IoT、グリーンエネルギー、といったキーワードも関連する、大きな変化が起こりつつある分野である、というヒントになれば幸いです。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革・サステナビリティを支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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