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  • Writer's pictureShingo Sakamoto

排熱発電技術の概観とスタートアップ

このたび、排熱発電技術について調査してみました。以前「電力を熱エネルギーに効率的に変換する技術」として産業用熱電池に関する記事を公開しましたが、今回はその逆で、「熱エネルギーを電力に効率的に変換する技術」となります。


排熱発電は、読んで字のごとく「排出された熱を利用した発電」を指しますが、カーボンニュートラル実現に向けた有効施策の1つとして近年注目が集まっています。そこで、国内の排熱利用状況や期待される技術の概観に触れつつ、後半は特に排熱発電関連技術の開発を進める国内スタートアップをリストアップしてまとめてみます。

(Source: https://pixabay.com/photos/train-railway-station-train-station-5638568/)



排熱の再利用状況をデータから考察する

排熱技術について調べてみると、「排熱」と「廃熱」という単語を同じくらいの頻度で見かけますが、改めて両者の違いを整理するところから始めます。こちらのサイトが最も合理的な説明をしているように思われるため引用すると、以下のような定義になります。

  • 排熱:ある工程等から外部へ排出される熱

  • 廃熱:排熱のうち再利用されずに捨てられる熱


排熱の方が上位概念となり、そのうち再利用される熱もあれば、再利用されずに捨てられる熱(廃熱)もあります。とはいえ「これまで有効利用されていなかったエネルギーを再利用する」というエネルギーリサイクルの文脈では、排熱と廃熱はほとんど同じ意味合いになりますが、改めてこのブログではこれ以降「排熱」で統一していきます。


まず、排熱発電の前提となる「未利用熱の活用」がどれくらい重要視されているのか、2022年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が公開した「ここまで来た熱利用 〜脱炭素社会を切り拓く熱の3R」という資料を参照してみます。


下記のグラフは、2020年度のエネルギー需給実績をもとに作成されたもので、生産と消費の両側面からエネルギーバランスが描かれています。なお、元データとなる需給実績を参照すると、2020年の1次エネルギー総供給(左棒グラフ)が約18.7EJ(エクサジュール=1018ジュール)、エネルギー消費(真ん中棒グラフ)が約12.1EJとなっています。また、「真に必要なエネルギー量」(右棒グラフ)というのは、各部門(運輸・民生・産業)で電力・燃料を利用した際にロスしているエネルギーを考慮したものになっています。


未利用熱の温度帯についてもまとめられており、86%が250℃未満、76%が200℃未満となっています。つまり、高温排熱はある程度再利用されているのに対し、低温排熱はうまく使えていないことになります。


低温排熱についてもう少し情報を得るために、NEDOが2019年に公開した15業種の工場設備の排熱実態調査報告書を参考に、関連する重要データをご紹介します。15業種とは、(1)食料品、(2)繊維、(3)パルプ・紙、(4)化学、(5)石油・石炭、(6)窯業・土石製品、(7)鉄鋼、(8)非鉄金属、(9)機械、(10)電機、(11)輸送機器、(12)ガス・熱供給、(13)電力、(14)清掃、(15)その他の製造業、です。


まず各業種において、どのような温度帯の排ガスが存在するか、というデータです。排ガス熱量が100,000TJ(テラジュール、ペタジュールの1/1,000、エクサジュールの1/1,000,000)以上なのは化学 / 鉄鋼 / 電力の3業種で、50,000TJ前後は石油・石炭 / 窯業・土石製品 / 清掃の3業種です。なお、清掃は廃棄物処理等を担う業種を指しています。



各業種における排ガス熱量を温度構成別にまとめてみると、以下のようになります。特に排ガス熱量の大きい6業種のうち、化学 / 石油・石炭 / 窯業・土石製品 / 鉄鋼の4業種は構成がおおよそ似ており、排ガス熱量の6~8割が199℃以下で、そのうち100~149℃と150~199℃が同程度の割合、あるいは100~149℃の比率がやや多くなっています。残りの2業種(電力 / 清掃)はそれぞれ特徴的です。電力は99℃以下が2割、100~149℃が7割で合わせて約9割を占めています。また、清掃は他業種に比べて200~249℃の構成が大きいのが特徴です。


一方、すでに記載の通り、排ガス熱量としては低温領域(199℃あるいは249℃以下)が多いものの、そのほとんどは熱利用が進んでおらず、再利用できているのは主に高温領域です。では、具体的にどのような機器によって回収されているのでしょうか?下方2つのグラフは、排熱利用機器入口温度別の排熱利用設備数(基)と排熱回収熱量(TJ)をまとめたものです。


(参考までにそれぞれの設備に関する簡単な解説を記載)

  • 排熱回収ボイラ: 排ガスの熱を利用し蒸気を発生させる機器

  • リジェネバーナー: 工業炉の主要排熱回収手段の1つ。リジェネレイティブバーナーの略で、コンパクトな蓄熱体(セラミックス等)を利用して排熱を回収し、新たに供給される空気やガスを予熱する。

  • レキュペレータ: リジェネバーナーと同じく工業炉の主要排熱回収手段の1つ。リジェネバーナーは蓄熱体を使用して熱を一時的に蓄え、交互に空気を予熱する一方、レキュペレータは熱交換が連続して行われ、熱と冷たい流体が金属の壁を介して直接熱を交換する。リジェネバーナーより低温〜中温の排熱回収に適し、構造も相対的にシンプルで維持管理しやすいと言われている。

  • エコノマイザ: ボイラの排煙の余熱を利用して給水を予熱することで、燃焼効率を向上させるために用いられる機器。


上記グラフは排熱を「回収」する機器の話ですが、同レポートで文中に記載されているところによると、熱を「排出」する機器については、製造設備の場合、100℃以下では圧縮機、200℃以下では蒸気ボイラ、500℃以上では燃焼炉・加熱炉の排熱利用ニーズが高いようです。発電設備の場合、200℃以下ではガスタービン・蒸気タービン、350℃以上ではガスエンジンの排熱利用ニーズが高くなっています。


長くなってしまいましたが、改めてここまでの情報をまとめてみます。

  • さまざまな業種で排熱が存在するが、特に熱ボリュームが大きいのは、化学 / 石油・石炭 / 窯業・土石製品 / 鉄鋼 / 電力 / 清掃の6業種である。

  • 未利用熱の7~8割は200~250℃より低い温度帯である。同温度帯の排熱を回収するために導入されている数が多い設備はエコノマイザであるが、回収熱量ベースでデータを見るとエコノマイザが回収している熱量はわずかである。

  • エコノマイザとはボイラの熱循環システムの一部であるため回収・再利用のシーンがボイラ利用に限られるが、熱排出機器は圧縮機・タービン等のように、ボイラとは限らない。

  • 低温度帯の排熱利用を進めるために、排熱機器・回収機器の効果的な組み合わせのバリエーションを増やしていく必要がある。



低温度帯の排熱利用先

前章で参照した「15業種の工場設備の排熱実態調査報告書」レポートでは、未利用熱活用技術の候補として、大きく4つの方向性が示されています。その4つとは、(1)蓄熱、(2)ヒートポンプ、(3)熱電発電、(4)熱機関発電です。(1)(2)は熱を熱として、(3)熱を電気として再利用する技術です。


(1)蓄熱

事業者にアンケートを行ったところ、特に100℃未満の排熱を、12~24時間蓄熱したいというニーズが全体の7~8割を占めています。調査報告書の中では特に紹介されていませんが、冒頭でもご紹介した「熱電池」調査でカバーしている範囲となりますので、もしよろしければご参照ください。


(2)ヒートポンプ

ヒートポンプは近年注目が集まっている技術の1つです。実はヒートポンプについても2024年1月に公開したIDATEN Venturesのブログで触れていますが、ドイツでは新設の暖房システムに再生可能エネルギー利用が義務付けられており、導入機器数が急増しています。ヒートポンプとは、化石燃料を燃やさずに空気中の熱エネルギーを集めて空調・給湯等に利用する技術で、こちらのサイトによると日本で販売されている最新ヒートポンプエアコンを利用すると、1の投入エネルギーで7の熱エネルギーを利用できるそうです。


ヒートポンプは、以下4つのコンポーネントから構成されることが一般的ですが、排熱を熱のまま利用するとしたらエバポレーターに利用することが現実的かと思われます。


  • エバポレーター:熱源から熱を吸収し、その熱で冷媒を蒸発させる

  • コンプレッサー:蒸発した冷媒ガスを圧縮し、温度と圧力を上げる

  • コンデンサー:圧縮された冷媒が放熱する部分で、ここで冷媒が液化。この熱が暖房や給湯に利用される。

  • 膨張弁:圧縮された冷媒の圧力を下げ、再びエバポレーターに戻す


なお、ヒートポンプについては、注目度の高まりに応じてグローバルで資金調達を進めるスタートアップが増えてきている印象があるため、別途タイミングを見て取り上げたいと思います。


(3)熱電発電

「熱電発電」という単語はやや包括的ではありますが、同レポートを含め「温度差(ゼーベック効果)を利用した発電システム」を指すことが一般的です。この原理で実際に稼働している電池の1つに、原子力電池が挙げられます。原子力電池においては、熱源となる放射性物質と冷却管の間に挟まれた熱電変換素子が電力を発生させています。


熱電発電システムは、動作部品が少なく、また騒音・排出ガスがないため、耐久性や環境性に優れているという強みを持つ一方、現状実用化されている素子の熱電変換効率が低い、高効率化しようとすると材料毒性元素が含まれる可能性がある、等の課題を抱えています。


(4)熱機関発電

熱機関発電は、エネルギーが熱エネルギー→機械的エネルギー→電気的エネルギーの順に変換される発電システムで、タービンを活用した発電システムはこれに該当します。次章でご紹介しますが、熱機関発電に類される技術で近年注目が集まっている「バイナリ発電」というアプローチがあります。



スタートアップの動き

ここまでの整理を踏まえ、前章の(3)(4)のような「熱を電気に変換して再利用する」技術関連のスタートアップを5社ご紹介します。並び順は、創業年が古い順とします。


創 業:2013年

概 要:


フレキーナがターゲットとするのは300℃未満の低温排熱で、電気の利用先としてはIoTシステム電源が想定されています。2022年に公開された記事によると、当該時点ではまだkWクラスの電力変換は難しく、必要電力量の小さいシーンを想定しているものの、数年のうちにkWクラスの変換を実現したいという旨が記載されています。


2023年6月に、NEDOの「脱炭素社会に実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム」およびGo-TECHに採択。2024年2月には、NEDO省エネルギー技術開発賞を受賞しました。


創 業:2016年

資 金:非公開

概 要:

同社は「アンビエント発電」企業を謳っていますが、これは実質「排熱発電」と同義です。(余談にはなりますが、同社は繰り返しアンビエント発電というワードを利用し、アンビエント発電という検索キーワードではGoogle検索で上位を獲得しており、カテゴリの認知を独占する、というアイディアは同業他社にない動きで、興味深く感じました。)


GCEインスティチュートは茨城県つくば市に本社を構える企業で、「温度差不要」のデバイスを開発しています(温度差が不要ということは、ゼーベック効果に依存しない発電原理になっているということ)。ホームページによると、同社は金属ナノ粒子を、介した電子のホッピング現象を利用しているそうです。


また、素子を直列・並列に接続することで、電圧・電流を大きくすることができる、という特徴も紹介されており、一般的な熱電変換素子には難しいスケールメリットが出せるかもしれません。

(Source: https://gce-institute.com/ambient-power.html)



創 業:2016年

資 金:非公開

概 要:

同社は茨城県つくば市に本社を構える企業で、産総研出身の西当氏が設立しました。同社は低温領域の排熱を利用した高効率の熱電変換を目指しており、PbTe(鉛テルルライド)にナノ構造技術を活用した素子開発を進めています。分類としては、ゼーベック効果を利用した熱電変換になります。鉛は環境や人体への有害性が懸念されており、取り扱いには注意が必要となります。そのあたりの対策や方針を知りたいところですが、ここ数年情報の更新がされておらず、研究開発の進捗を追うのが難しい状況です。



創 業:2019年

資 金:累計4,600万円

概 要:

同社は、トラックのエンジン冷却水を熱源として発電する超小型バイナリ発電システムの研究開発を進める企業です。バイナリ発電とは、熱機関発電システムの一種で、熱水や蒸気の力で、水よりも沸点の低いアンモニア水やペンタン、代替フロン等の作動媒体を沸騰させて生成した蒸気でタービン発電を行います。ポイントは、水よりも沸点が低い作動媒体を用いることで、100℃未満の排熱が利用できるところにあり、温泉地に設置されることも珍しくありません。一般的なバイナリ発電は10kW以上の設置式ですが、モビリティエナジーサーキュレーションは、この原理を1~4kWの発電出力でトラックや船舶に後付けできる超小型サイズのシステムに適用しようとしています。


創 業:2023年

資 金:累計5,000万円

概 要:



同社は、2023年8月に旭化成エレクトロニクスと進めている90℃以下の熱を活用したデバイス稼働の実証実験を公開しました。旭化成エレクトロニクスは、微弱電力で起動する昇圧・充放電制御回路を内蔵したDC/DCコンバータを開発しており、その電力生成をSTCが担うというプロジェクトになります。



今回はこれで以上とします。調べてみると、低温度帯の排熱利用はここ数年で急に現れた課題ではなく、長年に渡って課題とされてきたことがわかりました。一方、脱炭素機運の高まりに応じて、より緊急度・重要度の高い課題として再認識されつつあること、また研究開発の進展によって排熱発電方法のレパートリーが増え始めていることが、市場に対する注目度アップの原動力になっているようです。


また、本ブログでは、後半に熱の電気的再利用に焦点を当ててスタートアップ調査を行いましたが、技術開発そのものもさることながら、熱回収場所と(電圧・電流の大きさを考慮した)電力活用先の組み合わせアイディアが非常に重要だと感じました。そういった観点では、厳密には排熱回収と呼びがたいかもしれませんが、原子力電池は、人体内医療機器(ペースメーカー)や宇宙探索といったシーンの要件と機能(メンテナンスフリーが求められること、低い電圧でも許容されること、素子周辺の温度差がある程度一定であること等)がうまくマッチしており、非常に優れたアイディアであると再認識しました。産業シーンでも、今後IoTシステムの増加に応じて、ピタッとハマるユースケースが増えてくるかもしれません。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革・サステナビリティを支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


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