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Writer's pictureShingo Sakamoto

期待が寄せられるバイオマスとエネルギー生産

今回は、バイオマスを用いたエネルギー生産というテーマで調査してみました。バイオマスという単語自体はよく耳にするものの、実はその単語が意味する範囲は非常に広く、具体的に掘り下げていくハードルが高いテーマだと感じます。一方、特にエネルギー生産という観点では、昨今のサステナビリティに対する関心の高まりを追い風に、ますます注目されている分野です。今回は、私自身の勉強も兼ねて、バイオマスとエネルギーの関係を、一段掘り下げて調査した内容をブログの形にしてお届けします。


(Source: https://pixabay.com/ja/photos/バックグラウンド-バイオマス-70997/)



バイオマスに対する期待


そもそもバイオマスとは何でしょうか?よく耳にするワードではあるものの、私自身、これまで正確な定義を把握していませんでした。バイオマスは英語でいうと「bio」(生物)+「mass」(物質)であり、文字通り「生物由来の物質」となります。具体的には、植物・動物・微生物等の生物から得られる有機物質の総称です。この定義だと化石資源も該当しますが、一般的に「バイオマス資源」と呼ぶ時には、化石資源を除いた有機物質を指すようです。


バイオマスに社会の注目が集まることになった最初の大きな契機は石油危機と言われています。石油危機によって、石油に依存しない代替エネルギーに対する関心が高まり、バイオマスを利用したエネルギー生産に注目が集まりました。


その後、地球温暖化に対する懸念の高まりに応じて、バイオマスがさらに重要視されていくようになりました。具体的には、2000年代あたりから、持続可能なエネルギー源の需要が高まり、バイオマス資源の活用に対する期待に拍車がかかりました。


バイオマスが注目されている理由は原料によっても異なります。例えば、植物由来のバイオマスは大気から炭素を吸収することで成長するため「もし仮にバイオマス燃料を利用して炭素が大気中に放出されたとしても、その炭素はもともと大気から吸収したものなので、トータルで見るとプラスマイナスゼロ」という考え方に基づいて、化石燃料より環境フレンドリーな資源として評価されています。あるいは、家畜排泄物や生活排水の場合、植物のように光合成で炭素は吸収しないものの、燃料源として再利用することができれば、新たな価値が付加されるためアップサイクル(本来は捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生すること)の観点から注目されています。


こちらの資料を参考にすると、バイオマス資源には、次のような種類があるそうです。それぞれに、イメージしやすい具体例や一言解説をつけてご紹介します。

【廃棄物系資源】
  • 木質系バイオマス

    • 製材工場残材:木材切削屑、端材

    • 建設発生木材:建築現場からの木材くず、解体木材

  • 製紙系バイオマス

    • 古紙:新聞紙、雑誌

    • 製紙汚泥:紙製造過程で発生する汚泥

    • 黑液:製紙過程で使用された化学薬品と木材成分の混合物

  • 家畜排せつ物

    • 牛ふん尿:牛舎からのふん尿

    • 豚ふん尿:豚舎からのふん尿

    • 鶏ふん尿:養鶏場からのふん尿

    • その他家畜ふん尿

  • 生活排水

    • 下水汚泥:下水処理施設からの汚泥

    • し尿・浄化槽汚泥:個人住宅や公共施設からのし尿、浄化槽からの汚泥

  • 食品廃棄物

    • 食品加工廃棄物:野菜くず、肉のトリミング

    • 食品販売廃棄物

      • 卸売市場廃棄物:卸売市場で発生する果物・野菜のくず等

      • 食品小売業廃棄物:スーパーマーケットの期限切れ食品

    • 厨芥類

      • 家庭系厨芥類:一般家庭の食べ残し

      • 事業系厨芥類:飲食店の調理廃棄物や未消費食品

    • 廃食用油:加工工場・飲食店・家庭から廃棄される廃棄油

  • その他

    • 埋立地ガス:ゴミの埋立地から生成されるガス

    • 紙くず・繊維くず:紙や繊維製品の製造・消費過程で発生する廃棄物


【未利用系資源】
  • 木質系バイオマス

    • 森林バイオマス

      • 林地残材:伐採後の小枝や葉

      • 間伐材:間伐によって得られる木材

      • 未利用樹:市街地や公園での剪定木材等

    • その他木質系バイオマス(剪定枝など)

  • 農業残さ系

    • 稲作残さ

      • 稲わら:収穫後の稲の茎部分

      • もみ殻:稲柄の脱穀過程で発生する稲柄の外殻

    • 麦わら:小麦や大麦の収穫後に残る茎や葉の部分

    • バガス:サトウキビを絞った後の残さ

    • その他農業残さ:野菜や果物の収穫後の残さ


【生産系資源】
  • 木質系バイオマス

    • 短周期栽培木材:ポプラやユーカリ等、比較的短い周期で収穫可能な木材

  • 草本系バイオマス

    • 牧草:牧草地から刈り取った草

    • 水草:湖沼や湿地帯に生える草

    • 海藻:海や沿岸部で自生する、あるいは海藻養殖場で栽培される海藻

  • その他

    • 藻類:海藻以外の水中に生息する藻類

    • 糖・でんぷん:サトウキビやトウモロコシ等

    • 植物油

      • パーム:オイルパームの実から得られる油

      • 菜種油: 菜種(ラプシード)から抽出される油



バイオマスのエネルギー生産


バイオマスのエネルギー生産フローを簡単な図にまとめてみると、以下のようになります。


(Source: https://www.nedo.go.jp/content/100544819.pdf)



固体・気体・液体燃料の製造方法についてまとめたのが以下の表です。


(Source: https://www.nedo.go.jp/content/100544819.pdf)


難しい単語が多いので、具体的な理解には重要なポイントなので、1つずつ簡単にご説明していきます。


【物理的変換】
  • 固体燃料製造

    • 薪、チップ:木材を直接切断・破砕したもの

    • ペレット、ブリケット:切断・破砕された木材を高圧で圧縮したもの

    • RDF:可燃ごみを原料として破砕・成形・乾燥したもの

    • バイオソリッド:下水に含まれる有機物を乾燥・処理して燃料化したもの


【熱化学的変換】
  • 気体燃料製造

    • 熱分解ガス化:高温下でバイオマスを加熱し、酸素の少ない環境で反応させることで、合成ガスを生成する

    • 水熱ガス化:水の中で高温・高圧下でバイオマスを反応させ、水蒸気が反応媒体として機能して、合成ガスを生成する

  • 液体燃料製造

    • BTL(ガス化・触媒反応):バイオマス由来の合成ガスを、触媒反応を通じて液体燃料に変換する

    • バイオディーゼル燃料製造:主に植物油や動物脂肪をメタノールやエタノールと反応させて、バイオディーゼルを製造する

    • 急速熱分解:バイオマスを高速で高温にさらし、熱分解と冷却を通じて、液体燃料に変換する

    • 水熱液化:水中で高温・高圧の条件下でバイオマスを処理し、重油類似の液体燃料を生成する

    • 藻類由来のバイオ燃料製造:藻類から抽出される油脂を利用してバイオディーゼルや他の液体燃料を製造する

  • 固体燃料製造

    • 炭化・半炭化:バイオマスを限られた酸素のもとで加熱し、炭素質の固体燃料(バイオチャーまたは半焼成炭)に変換する


【化学的変換】
  • 気体燃料製造

    • メタン発酵:有機物を微生物の作用で分解し、メタンガスを生成する

    • バイオ水素製造:特定の微生物や化学反応を用いてバイオマスから水素ガスを生成する

  • 液体燃料製造

    • エタノール発酵:主に糖質やデンプンを含むバイオマス(例えばトウモロコシ、サトウキビ)を酵母で発酵させてエタノールを生成する

    • ブタノール発酵:上記に類似した発酵プロセスで、ブタノールという別の種類のアルコールを生成する。


なお、固体燃料・気体燃料はいずれも発電・熱利用に、そして液体燃料は基本的に輸送燃料として用いられていることがわかります(液体燃料は、一部助燃剤として発電に用いられています)。


さらにバイオマス原料の理解を深めるために、原料の種類ごとに、どのようなエネルギー変換技術が適用されるのか、整理していきます。いざ調べてみると、私が求めているような対応表が見当たらなかったため、ChatGPTを用いて対応表を作成してみました。

原料

エネルギー変換技術

製材工場残材:木材切削屑、端材

薪、チップ

建設発生木材:建築現場からの木材くず、解体木材

薪、チップ

古紙:新聞紙、雑誌

RDF

製紙汚泥:紙製造過程で発生する汚泥

バイオソリッド

黑液:製紙過程で使用された化学薬品と木材成分の混合物

熱分解ガス化

牛ふん尿:牛舎からのふん尿

メタン発酵

豚ふん尿:豚舎からのふん尿

メタン発酵

鶏ふん尿:養鶏場からのふん尿

メタン発酵

その他家畜ふん尿

メタン発酵

下水汚泥:下水処理施設からの汚泥

バイオソリッド

し尿・浄化槽汚泥:個人住宅や公共施設からのし尿、浄化槽からの汚泥

バイオソリッド

食品加工廃棄物:野菜くず、肉のトリミング

RDF、メタン発酵

食品販売廃棄物

RDF、メタン発酵

厨芥類

RDF、メタン発酵

廃食用油:加工工場・飲食店・家庭から廃棄される廃棄油

バイオディーゼル燃料製造

埋立地ガス:ゴミの埋立地から生成されるガス

熱分解ガス化

紙くず・繊維くず:紙や繊維製品の製造・消費過程で発生する廃棄物

RDF

林地残材:伐採後の小枝や葉

薪、チップ

間伐材:間伐によって得られる木材

薪、チップ

未利用樹:市街地や公園での剪定木材等

薪、チップ

その他木質系バイオマス(剪定枝など)

薪、チップ

稲作残さ

RDF

麦わら:小麦や大麦の収穫後に残る茎や葉の部分

RDF

バガス:サトウキビを絞った後の残さ

熱分解ガス化

その他農業残さ:野菜や果物の収穫後の残さ

RDF

短周期栽培木材:ポプラやユーカリ等、比較的短い周期で収穫可能な木材

薪、チップ

牧草:牧草地から刈り取った草

メタン発酵、熱分解ガス化

水草:湖沼や湿地帯に生える草

メタン発酵、熱分解ガス化

海藻:海や沿岸部で自生する、あるいは海藻養殖場で栽培される海藻

藻類バイオ燃料

藻類:海藻以外の水中に生息する藻類

藻類バイオ燃料

糖・でんぷん:サトウキビやトウモロコシ等

エタノール発酵

パーム:オイルパームの実から得られる油

バイオディーゼル燃料製造

菜種油:菜種(ラプシード)から抽出される油

バイオディーゼル燃料製造

(Source: ChatGPTを用いて筆者作成)


ChatGPTには、「バイオマス原料」と「エネルギー変換技術」の各項目を「最適に」マッチングさせるよう指示しただけなので、必ずしも対応が一意に決まるわけではないことをご留意ください。一方、面白いことに、バイオマス原料に最適なエネルギー変換技術として、先ほどのリストの中で「すでに実現されているエネルギー変換技術」ばかりが選ばれ、「研究開発されているエネルギー変換技術」はほとんど選ばれませんでした。つまり、世の中的に「こういう原料ならこういうエネルギー変換が技術的に確立されている」と認識されているマッチング結果としてはそれなりに確からしそうなものが得られたのではないかと思います。


これで、原料ごとにどのようなエネルギー変換が行われ、最終的に発電・熱利用・輸送燃料のどれに用いられるのか、あたりがついてきました。例えば、製材工場残材はおおよそ薪・チップとして発電・熱利用され、糖・でんぷん(トウモロコシやサトウキビ)はエタノール発酵に利用され、輸送燃料となることが一般的なようです。


このマッチングパターン(バイオマス原料とエネルギー変換技術)は、現在進行形でさまざまな研究開発が行われています。本レポートでは、その中の1つとして、後半でエタノール製造を取り上げますが、その前にもう少し、バイオマスのエネルギー利用の概観を、法律やコストの観点から考察してみます。



バイオマスのエネルギー利用を法律・コストの観点から考察する


バイオマスのエネルギー利用には、大きく、発電・熱利用・輸送燃料の3パターンがあるとご紹介しましたが、熱利用は原料・フローが発電と似ているため同じグループとして扱い、輸送燃料は個別に調べてみます。


【バイオマス発電(および熱利用)】

まず、バイオマス発電には、3つの方法があると言われています。直接燃焼方式、熱分解ガス化方式、生物化学的ガス化方式です。先ほどの3つの燃料分類(固体・気体・液体)でいうと、基本的に固体・気体の燃料が用いられます。熱利用も、ボイラーを回すところまでは共通です。

(Source: https://www.psinvestment.co.jp/small_talk/biomass-power-generation/)



資源エネルギー庁は、統計情報として、エネルギー源別に事業者が判明している発電所数を公開していますが、2023年10月公表時点で、バイオマス発電所は日本に104ヶ所あるそうです。そのデータを位置情報と紐つけてマップにしたものが以下の図です。株式会社森のエネルギー研究所という企業が公表しています。ただし、こちらのデータは、2012年に制定されたFIT制度(FIT制度については、後述いたします)を用いて発電している発電所のみがマッピングされている点にはご留意ください。

(Source: https://www.google.com/maps/d/u/0/viewer?mid=1b5599wwbOfiC_6wbUqA1iYWm2RV13uA&femb=1&ll=38.19970575424836%2C140.192412825176&z=6)


バイオマス発電を語る上で欠かせないのが、FITおよびFIPという制度です。いずれも再生可能エネルギー全体をカバーする制度ですが、ここでは主にバイオマス発電との関係に注目してご紹介します。


【FIT】

  • FITはFeed-In Tariffの略で、発電者に再生可能エネルギーの生成に対して固定価格での買取を保証する制度です。2011年の東日本大震災および福島第一原子力発電所事故の後、再生可能エネルギーの普及を促すことを目的に、2012年に施行されました。通常の電力市場価格は常に変動しますが、FITでは常に一定の価格で売電できるため、収入の予測が立ちやすいこともあり、再生可能エネルギー発電所の設置が進みました。

  • バイオマス発電所も例外ではなく、2012年までの累積導入量が約230万kW分だったところから、FIT開始以降の2012〜2020年だけで約220万kW分新規導入されています。

(Source: https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/061_01_00.pdf)


  • FITは、再生可能エネルギー発電事業者の市場参入を促すことが目的でした。ある程度事業者が増えてきたところで、次は再生可能エネルギー事業者が補助金に頼るだけではなく、自律して経営していく必要が出てきました。そこでFIPが出てきます。


【FIP】

  • FIPはFeed-In Premiumの略で、市場価格に加えて追加のプレミアムを再生可能エネルギーの発電者に提供する制度です。FITは再生可能エネルギー発電を従来の電力市場から切り離し、固定価格で売電することができるようにしていましたが、FIPは両者を統合して扱うことになります。FIPは2022年から導入されました。

  • なお、FIP導入に伴っていきなりFITが完全廃止されるわけではなく、両制度はしばらく複合的に運用されることになります。バイオマスに関していうと、以下のような整理になっています。

(Source: https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/data/kaitori/2022_fit_fip_guidebook.pdf)



上記の整理で、バイオマスといっても「一般木質等」「液体燃料」「その他」によって適用制度が異なり、買取価格の基準となる価格(「基準価格」)もそれぞれ異なります。原料ごとの基準価格は、以下のように定められています。

(Source: https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/data/kaitori/2022_fit_fip_guidebook.pdf)


この基準価格は何を根拠に設定されているのでしょうか?調べてみると、(もちろんこれ以外にもさまざまな要素があると思いますが)大きく2つ、設備容量と燃料費が関係しているようです。


まず、先ほどの表から「設備容量が小さい方が基準価格高い」(≒設備容量が小さいとコスト効率が悪く高値で売電できないと収支が合わない)という傾向を把握できます。


燃料費についてはどうでしょうか?以下の表は、バイオマス発電の燃料費を比較したものです。前述の基準価格と照らし合わせてみると、最も燃料費が低い建設資材廃棄物は基準価格も最も低く、最も燃料費が高いバイオマス液体燃料は基準価格も最も高くなっています。

(Source: https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/065_04_00.pdf)


では、日本の基準価格が他国に比べて安いのか高いのか、調べてみます。既出の基準価格表中段で、「一般木質バイオマス・農産物の収穫に伴って生じるバイオマス固体燃料」の「10,000kW未満」の基準価格が24円/kWhとなっていますが、これを欧州各国と比較すると約2倍となっています。

(Source: https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/065_04_00.pdf)


各国に比べて日本の一般木質バイオマス発電のコストが高くなっている理由は、原材料となる木材の調達を海外輸入に依存しているためです。この点に関して、資源エネルギー庁の分析を端的にまとめると、「大規模な発電所は、設備稼働率は高いものの、稼働率を高くするために木材を海外から大ロットで調達しており、燃料コストが高い」、「小規模な発電所は、木材調達先が国内であることが多いが、季節変動もあいまって安定的な調達ができず、稼働率が低い」となります。


改めて、2014〜2022年にFIT制度を用いて新規導入されたバイオマス発電所の原料構成を見てみると、成長を牽引しているのは「一般木質、農業残さ」(具体的には、パームヤシの殻の部分に相当するPKS、そして、木質ペレット)ですが、成長に合わせて海外輸入材が増加していることがわかります。最も燃料単価の低い建設廃材は全体に占める割合はわずかです。

(Source: https://jwba.or.jp/database/woody-biomass-database/renewable-energy/)


こちらが、「PKS」の輸入量推移です。主にインドネシアからの輸入量が増加しています。

(Source: https://www.rinya.maff.go.jp/j/boutai/yunyuu/attach/pdf/boueki-9.pdf)


続いて、こちらが、「木質ペレット」の輸入量推移です。ベトナムを中心に、カナダ・アメリカからの輸入量が増加しています。

(Source: https://www.rinya.maff.go.jp/j/boutai/yunyuu/attach/pdf/boueki-9.pdf)


日本には、建設済みで稼働待ちのバイオマス発電所がいくつもあり、今後さらに発電導入量は増えていく一方で、国内の木材供給が追いついておらず、原料の海外依存は続いてしまう可能性があります。この点について、貿易赤字を増幅させていること、さらに、そもそも炭素排出量を減らすためにバイオマス発電を行っているのに、その原料を海外から輸送する船舶に化石燃料が用いられていれば元も子もないのでは?という批判の声も聞こえます。今後、どのように日本の原料供給量を安定的に増やしていくか、という点が重要になります。


【輸送燃料】

こちらの資料によると、バイオマスを用いた輸送燃料開発は盛んに研究されており、大きく3つの世代に分けて議論されることがあるようです。第1世代と言われるのが、下の図で「穀物→エタノール発酵」「廃食用油→バイオディーゼル燃料」と書かれている部分です。


  • 穀物→エタノール エタノールは、トウモロコシ・サトウキビ・小麦等の炭水化物を豊富に含む原料を発酵させることにより、アルコールを生成します。すでに商用化されているプロセスですが、(食用作物を原料としていることからもわかる通り)食料資源との競合や、原料が大規模に収穫できる地域(具体的には、トウモロコシは米国、サトウキビはブラジル、小麦・テンサイはEUの生産量が多い)以外でのコストが高くなる点が課題視されています。

  • 廃食用油→バイオディーゼル燃料 バイオディーゼル燃料の主な原料として、菜種油・大豆油・パーム油等の植物油が挙げられます。これらをメタノール(エタノールが用いられる場合もある)と反応させて脂肪酸メチルエステルを生成するプロセスが一般的です。ただし、特にパーム油の生産における環境破壊の問題や、全体のエネルギー効率の低さが課題として挙げられます。

第1世代に続く第2世代と言われているのが、図の中で書かれている「木質系・草本系バイオマス→エタノール」や「藻類→藻類由来バイオ燃料」の変換技術です。


  • 木質系・草本系バイオマス→エタノール エタノールは穀物から生成するのが一般的でしたが、前述のような課題感から、穀物ではなく木質系バイオマスや農業残さ(バガス等)から変換しようとする動きが進んでいます。この場合、原料にエタノール化できない「リグニン」という成分が含まれるため、この除去が技術開発の主要課題であると言われています。穀物よりも持続可能性の高いバイオマス資源を用いるため「第2世代エタノール」と言われています。

  • 藻類→藻類由来バイオ燃料 また、新たな技術という意味では、藻類から藻類由来バイオ燃料を生成する動きも第2世代の一角として進んでいます。藻類は急速に成長するため、持続可能な燃料源としてのポテンシャルが高いとされています。機械的圧縮や溶剤抽出などの手法が用いて、収穫された藻類の細胞から油分(トリグリセリド)を抽出した後、油分はメタノールと反応して、グリセリンと脂肪酸メチルエステル(バイオディーゼル)に分解されます。バイオディーゼルの中には未反応のトリグリセリドやグリセリン・メタノール残留物が含まれるため、除去するために洗浄・沈殿・遠心分離等の精製プロセスを施します。


さらに最近は、「木質系・草本系バイオマス」から「BTL(ガス化液体燃料)」や「直接液化(急速熱分解・水熱液化)」を生成する技術も研究開発が盛んに行われており、これらを第3世代と呼ぶこともあるそうです。


BTL(Biomass-To-Liquid)は、バイオマスを熱分解ガス化して合成ガスを生成し、触媒反応で液体燃料(メタノール、ディメチルエーテル、FT油など)を得る技術です。熱分解ガス化の条件次第で合成ガスの組成が変わります。木質系バイオマスや農業残さ等、多様な原料に対応可能で、不純物除去が重要と言われています。


急速熱分解は直接液化技術の一種で、バイオマスを急速加熱し熱分解油を得る技術です。研究段階にあります。乾燥バイオマスの微粉砕が必要で、現在のところ大規模処理には不向きと言われています。


水熱液化も直接液化技術の一種で、高温・高圧の水熱状態でバイオマスを液化する技術す。こちらも研究段階と言われています。200~300℃で液化し、パイロットスケールまで開発されたが実用化例はまだ報告されていません。



第2世代エタノール開発の動き


最後に、第2世代エタノール(セルロース系エタノール)の技術開発に関する動きを、簡単にご紹介して締めくくりとしたいと思います。

セルロース系バイオマスからエタノールを生成するフローの一例をご紹介します。


まず、セルロース系バイオマスは硬度が非常に高く反応性が低いため、前処理が必要になります。この段階では、物理的(破砕・洗浄等)・化学的(希硫酸を用いた蒸煮等)処理が施されます。ここで処理強度を高めると後工程である糖化が容易になる一方、バイオマスそのものが分解・揮発して少なくなってしまうため、原料残存率と糖化率が最大化される条件を見つけることが重要になります。


次に、前処理済みのバイオマスに酵素(セルラーゼ)を添加して、バイオマス中のセルロース・ヘミセルロースを糖(グルコース、キシロース)に転換します。セルラーゼがエタノール製造に占めるコスト比率は大きく、セルラーゼを添加せず微生物(具体的にはカビ)による直接糖化法等が研究されています。こちらのサイトによれば、微生物を用いた糖化処理は極めて重要な技術であり、カビの他にはキノコも有力候補の1つとされているそうです。同サイトの末尾には、「近年バイオマス糖化に関連する菌株を中心に、多くのカビやキノコのゲノム情報の整備が進められていますが、それをきっかけに世界中でカビやキノコの研究が新しいフェーズを迎える可能性があるのです。」という記載がありますが、IDATEN Ventures 出資先のbitBiomeは、まさに微生物ゲノム情報を整備しデータベースを構築しているスタートアップです。また、スタートアップとしては、山形大学で生み出された技術を持つアルファテックという企業が、セルロースを簡単に非晶化する技術を開発しています。他にも、2010年に設立されたGSアライアンスという企業が主に竹から効率的にグルコースを生成する技術を開発しています。


なお、木材は主にセルロース(約50%)・ヘミセルロース(約20%)・リグニン(約20〜30%)で構成されていますが、リグニンはセルロースやヘミセルロースを包み込むように存在しており、セルロースに効率的にアクセスするためにはリグニンを処理する必要があります。この処理方法や、抽出したリグニンを低コストで化学品に変換する技術がいくつか研究開発されています。


その後、生成された糖をエタノール発酵酵母でエタノールに転換する工程があります。一般的なエタノールではキシロースの発酵ができないため、グルコース以外の糖も発酵できる酵母の改良技術が進められています。


最後に、発酵工程で生成したエタノール発酵液の濃度を高めるために、濃縮・脱水を行います。


上記のどの工程に強みを持っているかはわからなかったものの、2006年に設立されたBiomaterial in Tokyoという新興企業が、竹等の林地残材・稲わら・コーヒーかす等から第2世代エタノールを生成する技術を開発している、という情報があります。


改めて、セルロース系バイオマスからエタノールを効率的に生成する技術は、スタートアップ・大企業ともに研究が進められているテーマのため、今後も注目していきたいと思います。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

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