今回は、水電解技術(水を電気分解して水素・酸素を生成する技術)について調査してみました。
水素はカーボンニュートラルに必要不可欠な物質として、今後大きな需要増加が見込まれています。一方、現時点でほとんどの水素が化石由来となっている点が課題です(石炭や天然ガスを水蒸気と反応させて水素を抽出する)。
(Source: https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/suiso_seisaku/pdf/001_03_00.pdf)
そこで、上図右グラフにも示されているように、今後はより多くの水素が水電解技術によって生成されることが期待されています。水電解は、古くは19世紀にスタートした生産プロセスですが、近年脱炭素ニーズが高まる中で再注目されて研究が加速しています。今回はそんな「古くて新しい」水電解技術について、いくつかあるアプローチの原理説明、およびグローバルで資金調達を行うスタートアップのご紹介を中心にまとめていきます。
なお、為替レート(ドル・円)は 2023 年 10月 24 日時点のものをベースに計算 しています。
(Source: https://pixabay.com/ja/illustrations/pxclimateaction-7117008/)
水電解技術の種類
【アルカリ水電解】
アルカリ水電解は最も古典的な水電解手法です。19世紀にはすでに商業規模で実現されていたと言われています。
アルカリ水電解システムは、電極・電解液から構成されます。電極は正極(陽極)・負極(陰極)があります。電解液とは、水に電解質を溶かした水溶液です。電解質には、水酸化ナトリウム(NaOH)・塩化ナトリウム(NaCl)・硫酸(H₂SO₄)等が利用されます。
(Source: https://chuugakurika.com/2018/04/20/post-2263/)
なぜ水ではなく電解質水溶液である必要があるのでしょうか?この問いを考えるために、電解液に水酸化ナトリウム(NaOH)が用いられた場合のケースで、アルカリ水電解のフロー全体を整理してみます。
(Step.1) 水酸化ナトリウム(NaOH)は水に溶けると、Na+・OH-というイオンに分離します。Na+はプラスイオン(電子が少ない状態)、OH-はマイナスイオン(電子が多い状態)です。
(step.2) 電極に電流が流れると、正極は電子を放出し電子が少ない状態(正の電荷を持つ)、負極は電子を受け取り電子が多い状態(負の電荷を持つ)となります。
(Step.3) 電子が少ない状態のプラスイオンは電子を受け取りに負極に、電子が少ない状態のマイナスイオンは電子を受け渡すために正極に、それぞれ引き寄せられます。今回の場合、Na+は負極に、OH-は正極の近くに移動します。
(Step.4) 両極で化学反応が起こります。OH-は正極に電子を渡します。この時の反応は、4OH- → 2H₂O + O₂ + 4e-となります(水と酸素が発生し電子を放出)。負極ではNa+が電子を受け取る反応を起こしそうですが、実際はそうならず、電子を受け取るのは「水分子」になります。これは、電子を得る力(標準還元電位、イオン化傾向)を、Na+よりも水分子の方が強く持っているためです。それを踏まえて、負極で起こる反応は、2H₂O + 2e- → H₂ + 2OH-となります。
(Step.5) 両極を合わせると、2H₂O → 2H₂ + O₂となり、水分子2個を分解して、水素分子2個と酸素分子1個を得ることになります。
改めて先ほどの疑問(なぜ水ではなく電解質水溶液を用いるのか?)に戻ります。実は水も自らイオン化し、H+とOH-に分離することができますが、そのイオン量が非常に小さく、電気伝導にほとんど寄与しません。そのため、より多くのイオンを生成する電解質を水に溶かし、電気伝導度を向上させるという手法が一般的となっています。
アルカリ水電解の電解質には、水酸化ナトリウムの他に、水酸化カリウム(KOH)が用いられることが多いようです。カリウムイオンはナトリウムイオンに比べて水分子との結合が弱く移動しやすいことから、高い電気伝導性を持つ一方、価格は水酸化カリウムの方が水酸化ナトリウムより高いという側面もあり、決定的にどちらか一方が用いられているというわけではなさそうです。
アルカリ水電解は、シンプルな構造でコストも低いことが強みですが、大きく3つの課題がありました。
(1)水素が他の物質と混ざるリスクがある:生成された水素ガスが、水溶液中の水酸化物イオン(OH-)や酸素ガス(O₂)と混ざってしまうリスクがあります。前者は水素純度の低下、後者は爆発リスクにつながります。
(2)耐久性が低い:酸性水溶液に比べれば腐食性は相対的に低いものの、強アルカリ性水溶液は電極等を劣化させてしまうリスクがあります。
(3)高温・高圧環境が必要:装置が大型化する中で電解効率を高く保つためには分子の反応を活性化させるために高温・高圧にする必要があります。
こういった課題を解決しようと登場したのが固体高分子電解質膜(Polymer Electrolyte Membrane)です。固体高分子電解質膜を利用して水を電気分解する方法は1970年代にGeneral Electricが開発したのが始まりと言われています。固体高分子電解質膜には、プロトン交換膜(PEM=Proton Exchange Membrane)とアニオン交換膜(Anion Exchange Membrane)の2種類があります。固体高分子電解質膜自体がPEMと略されることがありますが、紛らわしいため、本レポートではプロトン交換膜をPEMと呼ぶことにします。
【PEM水電解】
PEM水電解システムは、以下のような構造になっています。中央の緑色の部分がPEMで、PEMは両電極に挟まれるように配置されています。この図では、右側の電極が正極、左側の電極が負極となっています。なお、電極には貴金属触媒が用いられることが多く、正極にルテニウム(Ru)やイリジウム(Ir)、負極には白金(プラチナ、Pt)が採用されることが一般的です。
(Source: https://www.peakscientific.jp/discover/articles/how-does-a-hydrogen-generator-work/)
次に、こちらの論文を参考に、PEM水電解の反応フローを整理してみます。
(Step.1) 正極に電流を流すと、水分子(H₂O)が電気エネルギーで酸素分子(O₂)とプロトン(H+、水素イオン)に分解されます。反応式は、2H₂O → O₂ + 4H+ + 4e-です。その後すぐにプロトンは水分子(H₂O)と反応し、ヒドロニウムイオン(H₃O+)となります。
(Step.2) ヒドロニウムイオンがPEMを通過し、正極から負極に移動します。
(Step.3) 負極でヒドロニウムイオンから離れたプロトンが電子と結合し、水素ガスを生成します。反応式は、4H+ + 4e- → 2H₂です。
PEMは、高分子材料(ナフィオンのようなフッ素系高分子が一般的)で構成されていますが、ナフィオンの場合、スルホン酸基(-SO₃H)がヒドロニウムイオンを引きつけ、PEMを選択的に通過させます。スルホン酸基は、プラスイオンのみを通し、マイナスイオンや分子を通しません。それによって、負極で発生した水素は純度を高く維持することができます。また、PEM水電解システムは水溶液を必要とせず、システムを循環するのは水のみであるため、設備がそれほど劣化しない、というのも強みです。さらに、1気圧を下回る圧力環境下でも反応するため、高温・高圧にする必要がありません。
一方、課題と言われているのがコストです。電極触媒の貴金属が高価であるうえに、PEMの原材料および薄膜製造プロセスにコストがかかります。
経済産業省が2021年に発表した「再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造」という資料によると、2021年時点で商用レベルに近い技術水準にあるシステムはアルカリ水電解とPEM水電解と紹介されています。一方、設備コストを含む水素製造コストはどちらも依然として高く、商用化にはコスト削減が必要不可欠と言及されています。参考までに、日本企業が実証したところによると、現行の設備コストは、アルカリ型:14.4万円/kW、PEM型:37.9万円/kWとなっており、研究開発目標として2030年までにアルカリ型:5.2万円/kW、PEM型:6.5万円/kWの達成を目指しているそうです。
【AEM水電解】
近年、PEM型水電解の課題であるコスト問題を解決するため、AEMの研究が進められています。PEMはProton(プラスイオン)を選択的に通過させる膜ですが、AEMはその逆でAnion(マイナスイオン)のみを通す役割を持ちます。
一例として、東京工業大学の研究成果をご紹介します。PEM水電解のコストが高いのは、ヒドロニウムイオンによって形成される酸性環境に強い貴金属触媒が必要になるためです。一方、AEMは正極で分解されたH+とOH-のうちOH-のみを通しますが、この結果、膜の周囲に形成されたアルカリ性環境がAEMを分解してしまいます。そこで、東京工業大学の研究グループは、アルカリ性環境で分解しないAEMの探索を行い、骨格が芳香族結合のみで構成される全芳香族高分子型AEMの開発に成功したそうです。この発見がどの程度産業レベルで活用されているのかまだわかりかねますが、白金を用いることなくアルカリ性環境でも高い耐久性を示しながら水電解に成功した、という結果は大きな注目を集めました。
(Source: https://www.titech.ac.jp/news/2021/049334)
また、アルカリ性環境に耐えられるAEMの開発、というテーマには、山梨大学を中心とする研究グループも挑んでいます。2022年7月に発表された資料によれば、同グループはQBPAという新規三元共重合体を開発し、高いイオン伝導性と耐久性を持つAEMの開発に成功したそうです。
これらの他にも、新しいAEMの開発を行う研究チームはいくつもあり、注目されている研究トピックの1つであるように感じます。
固体酸化物水電解
固体酸化物水電解は、SOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell)と略されます。以下は東芝株式会社が開発したSOECのイメージ図ですが、負極(上から2番目の「水素極」が該当)で水蒸気が電気分解されて生成された水素ガス(H₂)と酸化物イオン(O₂-)のうち、酸化物イオンは電解質(ジルコニア等のセラミック素材が利用される)を通じて正極に移動し、正極で酸化ガスになります。
(Source: https://www.global.toshiba/jp/products-solutions/hydrogen/research.html)
これまでご紹介した電解装置がいずれも60〜80℃で動作するのに対して、SOECは600〜700℃の高温環境となる点が特徴的です。温度が高いと反応は促進されるため、水素製造装置の効率は上がる一方、周囲との温度が大きすぎるために放熱が発生する、高温で劣化しにくい高耐久性材料が必要になる等、高温を扱うからこその課題もあるようです。また、イメージ図をご覧いただくと感じる通り、構造が複雑になるため製造コストも高くなる傾向があるそうです。
世界の水電解スタートアップ
前半の各水電解手法の原理を踏まえ、この章では、世界の水電解スタートアップをご紹介します。世界中で技術開発が進んでいるテーマのため、今回ご紹介する以外にもスタートアップは存在すると思いますが、ご了承ください。並び順は設立が古い順にしています。
地 域:イスラエル
設 立:2019年
概 要:
同社は、「E-TAC」(Electrochemical, Thermally Activated Chemical)と呼ばれる水電解技術を開発しています。この技術のポイントは、「E-TAC」という文字通り、電気化学(Electrochemical)プロセスと熱活性化学(Thermally Activated Chemical)プロセスが2段階に分かれて行われる点にあります。このプロセスは、「どのように水素ガスが他のガスやイオンと混ざらないようにするか」という水電解プロセスの課題に対する1つのアプローチです。PEM・AEMのように特定イオンのみ通過できる膜を利用するのが主流になりつつありますが、E-TACは膜を利用することなく、水素と酸素が発生するタイミングをずらすというアイディアを採用しました。
(Source: https://energy-shift.com/news/0b1dfe20-8933-46d6-8229-b02a31011737)
上図右側のb(Step 1〜2)がE-TACプロセスになります。まず槽に25℃の電解液を充填した状態で電極に通電すると、負極で水素が発生します。このタイミングで、通常は正極側で酸素が発生しますが、E-TACではこの反応が起こりません。この時、正極側の電極に採用されているNi(OH)₂(水酸化ニッケル)がNiOOH(オキシ水酸化ニッケル)に変わりますが、酸素は発生しません。次に、その状態で電解液を95℃にするとNiOOHがNi(OH)₂に戻り、その時に酸素ガスが発生します。第一反応は電気化学反応、第二反応は熱活性化学反応となるそうです。H2Proの説明によると、この仕組みによって全体のエネルギー効率が従来方式に比べて約25%向上するそうですが、ホームページで25%の内訳が説明されているわけではなく、このあたりはもう少し詳細に知りたいところです。
進捗と今後のロードマップ:
同社はモジュールシステム(モジュールを組み合わせることで拡張させる)を採用しています。モジュールの最小規模は25MWで、1時間あたり約600kgの水素を生産することになります(水素1kgあたり約42kWhの電力消費量)。ホームページを見ると、顧客に納入する商用システムの完成は2025〜2026年を目指しており、現在はプロジェクトベースで実証を進めている段階です。
資金調達状況:
Cruncnhbaseによると、H2Proはこれまでに累計1億700万ドル(≒160億円)調達しており、株主には、Breakthrough Energy Venturesのような脱炭素分野で著名なベンチャーキャピタルファンド(VC)から、ArcelorMittal(鉄鋼業界)・Hyundai Motor Company(自動車業界)のような事業会社まで並んでいます。住友商事が2020年に同社に出資し、日本展開の支援を行っています。
地 域:日本
設 立:2019年
概 要:
AZUL Energyは、白金触媒の代替材料となり得る新触媒「AZUL」の開発を進める東北大学発スタートアップです。AZULは、金属錯体青色顔料とカーボン材料を合成してつくられており、白金触媒同等の性能を有するとホームページでは紹介されています。
進捗と今後のロードマップ:
2021年6月、イタリアの水電解システムメーカー「Industrie De Nora」と資本業務提携を締結しました。プレスリリースによると、De Noraは水電解システムのコスト低減のために非貴金属触媒を探索しており、AZULを高く評価したそうです。両社は共同の技術委員会を設立し、今後数年間にわたってプロジェクトを推進していくことになっています。
2023年2月、日本化薬株式会社と業務提携契約を締結しました。日本化薬株式会社がAZULの量産製造を担うことを目指し、両者は2021年から協業を進めてきましたが、製造技術の目処が立ったため今回の発表に至ったそうです。
地 域:アメリカ
設 立:2020年
概 要:
H2U Technologiesは貴金属触媒フリーなPEM水電解システムの開発を行うスタートアップです。カリフォルニア工科大学における10年間の研究成果を商業化するために設立されました。
同社が有する独自の触媒探索エンジン(Catalyst Discovery Engine、CDE)を活用すると、触媒サンプル合成にかかる時間を大幅に短縮することができると言われています(従来は1触媒サンプルあたり3〜4日かかっていたのが、CDEを活用すると10分程度で完了するとのこと)。
また、CDEだけでなく、正極にイリジウムを使わない「Gramme 50」というPEM電解槽を開発しています。輸送コンテナに収まるよう設計された電解槽モジュールは200kWで、1日あたり最大80kgの水素を生産できるようです。計算すると水素1kgあたり60kWhの電力消費量となり、単純比較すると、H2Proが謳う42kWh/kgに比べてやや電力効率が悪くなっています。
なお、大阪大学の研究チームの発表によると、従来のPEM電解槽によって製造した水素から発電した場合、1GW(ギガワット)相当の電力を得るにはイリジウムが700kg必要となりますが、イリジウムは1gあたり2万円を超える高価な材料であるうえに年間算出量が約7tしかないそうです。1GWの電力を得るために、140億円(700kg × 2万円/g)以上必要となるということで、単位を変換すると、1MW(メガワット)で1,400万円、1KW(キロワット)で1万4,000円、1W(ワット)で14円となります。
進捗と今後のロードマップ
2021年4月、アメリカのガス会社SoCalGasと提携し、Gramme 50を活用した水素製造の実証実験を行うと発表しました。
2023年3月、同社は東京ガス株式会社と共同開発契約を締結し、CDEを活用した非イリジウム触媒の開発を進めています。
資金調達状況
H2U Technologiesはこれまでに累計1,800万ドル(≒27億円)調達しており、株主にはアメリカのVCが並んでいます。
地 域:アメリカ
設 立:2021年
概 要:
同社は「低コストで効率的な水電解システムを開発する企業」と各所で紹介されていますが、肝心の技術コアがどのようなものかわかる情報は非常に限られています。意図的に公開されていないような気がします。調査した範囲では、技術的革新性が分解プロセスにあるのか、触媒にあるのかも明かされていません。
進捗と今後のロードマップ
2023年5月、同社はアメリカのマサチューセッツ州に最初の工場を建設すると発表しました。本工場は100MWの電解槽を量産する役割を担っており、年間生産能力は1.2GWと言われています。この生産は2024年第一四半期に開始される予定です。
資金調達状況
Electric Hydrogenはこれまでに累計2億2,200万ドル(≒330億円)調達しており、株主にはBreakthrough Energy Venturesを含む脱炭素系VCに加え、Rio Tint(鉄鋼原料)・Honeywell・三菱重工株式会社(航空機等)等の事業会社も並んでいます。
地 域:アメリカ
設 立:2021年
概 要:
Verdagyは、「eDynamic」という特許技術を活かしたAEM水電解システムを設計・製造するスタートアップです。ホームページを見る限り、eDynamicという名前は、動的(Dynamic)な電力活用ができることに由来しているようです。同社の水電解システムは、再生可能エネルギー由来の電力で稼働することが前提とされていますが、天候や需給バランスに応じて変動する再生可能エネルギーの電力料金を踏まえ、電流密度が最適になるよう自動調整される技術が同社の強みになっているようです。
進捗と今後のロードマップ
2022年8月、500kW商用電解槽モジュールの販売を開始しました。プレスリリースによると、1セル約166kWで合計500kWとなっており、1セルあたり28,500cm2のAEMが組み込まれています。1セルが1時間あたり水素を最低3kg以上生産するそうなので、水素1kgあたり55kWh以下の電力使用量となります。H2Proの42kWh/kgよりは大きく、H2U Technologiesの60kWhよりは小さい数字です(電力効率を把握するために簡易試算していますが本格検討に当たってはより厳密な数値で比較する必要があります)。同社は次に20MW電解装置の発売開始を目指して技術開発を進めているようです。
資金調達状況
Verdagyはこれまでに累計4,400万ドル(≒66億円)調達しており、株主にはKhosla Ventures・Temasek Holdings等のVCに加え、それぞれBHP(原料メーカー)・TDK(電子部品メーカー)のCVCであるBHP Ventures・TDK Ventures等の事業会社も並んでいます。
こうして見てみると、水電解プロセスの普及はどれくらいコストが下げられるかにかかっているようです。最後に、こちらの資料を参考に、水電解手法による水素製造のコスト感をご紹介いたします。(資料は2015年に書かれたもののため2023年現在は前提が変わっている可能性がある点にご了承ください。)
以下のグラフは、13.6円/kWhの風力発電電力を用いて、設備コスト100万円/Nm³/hの水電解システムで水素を製造した場合のコストを、設備利用率ごとに算出したものです。電力消費原単位(水素1Nm3を製造するために必要な電力量)は5kWh/Nm3と設定されています。なお、水素1kgは11.2Nm3なので、5kWh/Nm3は56kWh/kgに相当しますが、本記事でご紹介した電力消費量も約40〜60kWh/kgに収まっていたことを考えると、5kWh/Nm3は違和感ない数字です。
(Source: https://eneken.ieej.or.jp/data/5905.pdf)
上記の条件で計算を行うと、まず電力料金だけで68円/Nm3となります。日本では2030年に水素製造コスト目標を30円/Nm3に設定されていることを考えると、電力料金だけで倍以上になってしまっていることがわかります。電力料金か電力原単位を半分以下にする必要があります。また、ここに設備コストが上乗せされます。稼働率90%の場合で11円/Nm3、10%の場合で103円/Nm3と試算されています(再生可能エネルギー由来の発電量は天候によって大きく変動する可能性があり、稼働率を高く保つのが難しい)。
そういった意味では、以前ご紹介したような再生エネルギー由来の電力を貯蔵するさまざまなシステムの活用を通じて、電力を安定供給し、水電解システムの稼働率を極限まで高めることが重要になるかもしれません。
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