top of page
Search
Writer's pictureShingo Sakamoto

製造業特化のPEファンド:CORE Industrial Partners

Updated: Mar 1, 2023

今回は「ものづくり」領域に特化して投資活動を行っているCORE Industrial Partners(以下、「CORE」)というプライベート・エクイティ・ファンド(以下、「PE」)について、調べてみることにします。


「PEとはどんなことをしているのか?」という基本的な部分については、インターネット検索すると日本語でもさまざまな情報がヒットするため、詳細説明を割愛します。未上場企業に投資するという意味ではVCも「広義のPE」の1つですが、VCと比較される形で紹介される「狭義のPE」は、ビジネスモデルが確立された成熟期の企業に投資を行い、企業価値を向上させるために過半数の株式シェアを持ちながら、経営に積極関与するケースが一般的です。(参考:一般社団法人日本プライベート・エクイティ協会ホームページ


COREも、原則過半数の株式シェアを持ちながら、経営に積極関与するという点においては一般的なのですが、その中でも「北米の中堅製造業に特化して」企業買収を行っている点がユニークだと思います。


今回は、「ものづくり」企業の買収および企業価値向上に関するCOREの投資活動について知ることで、ものづくりを支えるスタートアップを支援するうえで何か学びがあるのでは?

と思い、少しでも何かCOREから学びを得よう!という気持ちで調べていきます。

(Source: https://pixabay.com/ja/photos/%e5%b7%a5%e6%a5%ad%e7%94%a8-%e6%ad%af%e8%bb%8a-%e3%83%86%e3%82%af%e3%83%8e%e3%83%ad%e3%82%b8%e3%83%bc-1218153/)



CORE Industrial Partnersの概要

COREは、アメリカのシカゴで2017年に創業されたPEです。北米の中堅製造業に投資を行っています。ホームページで公開されている最新のファクトブックによると、投資対象とする企業の売上は最大2億ドル(≒220億円)、EBITDAは最大2,000万ドル(≒20億円)で、投資額は最大1億ドル(≒110億円)です。投資タイプには、家族承継、カーブアウト、レバレッジド・バイアウト(LBO)、マネジメント・バイアウト(MBO)など、さまざまなパターンが存在します。直近のファンドは2021年2月にクローズしたもので、総額4億6,500万ドル(≒500億円)になります。


投資対象を、大きな括りでは「中堅製造業」としていますが、少し細かく見ると、3つのターゲット(業種・技術・サービス)に分けて投資コンセプトを持っているようです。


①ターゲット業種

航空宇宙、防衛、自動車・輸送、建築・土木・インフラ、電力、食品、エンジニアリング、機械・設備、医療、紙・パッケージ、パーソナルケア、特殊素材


②ターゲット技術

3Dプリンティング、ロボット、モーション制御、光学・レーザー、電力、試作、センサー、試験・計測、水・環境


③ターゲットサービス

流通サービス、設備サービス、環境サービス、施設サービス、インフラサービス


ただし、これだけだと抽象的でわかりづらいため、具体的にどのような企業に投資しているのか、ホームページで公開されている11社の投資先について見ていきましょう。以下、投資タイミングが古い順にご紹介していきます。


投資タイミング:2017年12月(→2020年9月に売却)

1987年創業のPrototekは、金属・プラスチックどちらの素材でも、切削加工・板金加工・表面処理等による部品製造を行うことができます。航空宇宙・防衛・電子機器など、幅広い業界に顧客を抱えています。顧客から注文を受けると即日見積もりを提示し、製造〜納品までをスピーディに実施します。


COREは、2017年に創業家から買収。買収当時は生産拠点が2つだったPrototekは、CORE投資後に拠点を4つに増やし、全米の顧客から受注することができる体制を整えました。また、COREは生産能力の拡大に加え、システム統合、意思決定に必要なデータ整備など、デジタル面の支援にも注力しました。


もう1つ、COREは積極的な買収を投資先の成長支援施策として据えています。Prototekは、COREに買収された後、特に医療分野でシェアを持つ企業を2社を買収し、事業拡大しました。このように、COREの傘下に入った企業は、COREのネットワークや資金を活用して、顧客基盤の拡大やシナジー創出を狙って買収するというケースが多くみられます。


買収時ニュース:https://www.businesswire.com/news/home/20171213005271/en/CORE-Industrial-Partners-Acquires-Prototek-Sheetmetal-Fabrication

売却時ニュース:https://www.businesswire.com/news/home/20200930005017/en/CORE-Industrial-Partners-Sells-Prototek




投資タイミング:2018年8月

Fathomは、オンデマンド3Dプリンティングサービスを提供する企業です。買収された当時は、カリフォルニア州とワシントン州の2拠点に合計約35台の3Dプリンターを持っていたFathomですが、COREの傘下に入ってからはアイオワ州に本拠を構えるMidwest Composite Technologies(MCT)を買収し、生産拠点を拡大。MCTは金属とプラスチックの3Dプリンターを約45台保有しており、Fathomは買収によって一気に生産能力を倍増させました。


3Dプリンティングプラットフォームとしての地位を確立したFathomは、2021年12月にニューヨーク証券取引所にSPAC上場しました。


買収時ニュース:https://fathommfg.com/blog/fathom-acquired-by-core-industrial-partners

上場時ニュース:https://www.metal-am.com/fathom-digital-manufacturing-listed-on-nyse/



投資タイミング:2019年8月

Sayliteは、1965年にテキサス州で創業された、照明ソリューションを提供する企業です。商業施設・工場・高級住宅向けに、LED照明や制御機器を販売しています。


買収時のニュースによればSayliteは、「COREの提供資金によって、生産能力拡大のための設備投資、および製品ラインナップ拡充に向けた補完的企業買収を行っていく」と書かれています。


買収時ニュース:https://www.businesswire.com/news/home/20190904005433/en/CORE-Industrial-Partners-Announces-Acquisition-of-Fleco-Industries



投資タイミング:2020年7月

ANRはヘアケア・スキンケアなどライフスタイル製品の受託製造・処方・販売を行う企業です。大小・新旧さまざまなブランドから受けた注文に柔軟な対応を行い、市場投入までの時間を短縮する一貫ソリューションを提供しています。


ANRはCORE傘下に入ってから、ANRと同じようにブランド受託製造を行うHealthSpecialityを買収し、製造可能な製品ラインナップおよび生産能力を拡大しました。


買収ニュース:https://www.businesswire.com/news/home/20200702005036/en/CORE-Industrial-Partners-Announces-Investment-in-Arizona-Natural-Resources



投資タイミング:2020年7月

Incodemaは、2001年に創業された、微細な板金切断・成形技術を持つ企業です。顧客の金型に関するあらゆる要望に対応し、複雑で厳しい公差の部品を通常6〜8日で製造します。精密な加工を実現するために、レーザー・マイクロウォータージェット・特殊スタンピングなどの幅広い先端技術を扱うことができます。


COREはIncodema買収と同時に、Newchemという企業を買収し、Incodemaに統合しました。Newchemはフォトケミカルエッチング技術(精密写真技術を応用し、金属の化学反応・腐食作用によって行う化学切削・加工)に強みを持っており、両社の統合によって精密度の高さが求められる業界(航空宇宙・防衛、電子機器、医療製品等)でプラットフォーマーとしてのポジションを確立しようとしています。その後も、Incodemaは精密加工分野での買収を3件ほど行っています。


そして2021年4月、Incodemaは先ほどご紹介したFathomの傘下に入りました。3Dプリンティングに強みを持つFathomと、精密加工に強みを持つIncodemaは補完関係にあります。


買収ニュース:https://www.businesswire.com/news/home/20200729005133/en/CORE-Industrial-Partners-Acquires-Incodema-and-Newcut



投資タイミング:2020年10月

TCG Legacyは、ノースカロライナ州に本拠を構え、印刷・包装を通じて顧客にマーケティングソリューションを提供する企業です。医薬品・消費財などのメーカーを主な顧客としています。顧客製品のフルフィルメントを中心に、それだけでなくSNS駆使したデジタルマーケティング支援も行います。


CORE参画後、TCG Legacyは、ニュージャージー州に拠点を持つMedLitという企業を買収。MedLitは製薬業界に豊富な顧客基盤を持ち、かつ特に微細な表示印刷技術に強みを持っています。両社の統合によって、特に製薬業界向けに、表示印刷から包装までワンストップでサービス提供できる基盤の整備が進んでいるようです。


買収ニュース:https://www.businesswire.com/news/home/20201006005143/en/CORE-Industrial-Partners-Acquires-TCG-Legacy



投資タイミング:2020年10月

J&K Ingredientsは、製パン業界で使用される防カビ剤メーカーです。例えば、通常の食パンには約40%近くの水分が含まれており、細菌が増殖しやすい環境になっています。防カビ剤には合成と天然の2種類がありますが、J&Kは天然由来の防カビ剤製造に強みを持っています。


COREによる買収ニュースには、「アメリカで着実に進むナチュラル・オーガニック・クリーン原料製品への転換トレンドを追い風として、J&Kはさらなる製品開発、顧客基盤の拡大を狙って成長資金を模索していた」、と書かれています。COREのホームページによると、J&K Ingredientsはシナジーを生む買収先を探しているようです。


買収ニュース:https://peprofessional.com/2020/10/core-industrial-partners-acquires-jk-ingredients/#:~:text=CORE%20Industrial%20Partners%20has%20acquired,%2C%20flavors%2C%20emulsions%20and%20stabilizers.



投資タイミング:2021年4月

KELVIXは、CORE買収先のSayliteと同じ照明ソリューションという領域で、顧客に合わせた光源・照明器具・アクセサリーの選定とインテグレーションを行う企業です。オレゴン州に本社を構え、全米に代理店ネットワークを構築しています。


公開情報の範囲ですが、SayliteはLED製品の製造に強みを持つ一方、KELVIXは上流の要件定義・設計に強みを持っており、両社の間にはシナジーがありそうです。これは想像ですが、COREは、FathomとIncodemaを統合させたように、SayliteとKELVIXを統合し、照明ソリューションプラットフォームをつくろうとしているのではないか、と思います。


買収ニュース:https://coreipfund.com/news/core-industrial-partners-announces-acquisition-of-kelvix/


投資タイミング:2021年8月

CGI Automated Manufacturingは、カスタム精密板金加工ソリューションを提供する企業です。1967年に創業された同社は、切断・切削・溶接・組立などの幅広い製造プロセスをカバーしており、ロボット溶接・自動レーザー切断など、特にオートメーションに積極投資してきました。


食品・照明・電力分野に特に豊富な顧客基盤を持つ同社は、全米で高まるindustry 4.0への注目と期待を受け、地理的な拡大に向けて積極投資をしていくため、COREからの資金を受け入れたそうです。CGIは、COREによる買収後すぐに、同じく精密加工技術を持つPrecision Metal Fab Tool & Dieを買収し、またその他2件の買収を実行しています。



買収ニュース:https://www.businesswire.com/news/home/20210812005214/en/CORE-Industrial-Partners-Acquires-CGI-Automated-Manufacturing


投資タイミング:2021年10月

3DXTECHは、3Dプリンター用フィラメントを製造する企業です。COREは3DXTECHへの投資と同時に、3DXTECHと同じく3Dプリンター用フィラメントを製造するTriton、オープンソースの3Dプリンターを製造するGearboxを買収し、3社を統合した高性能材料3Dプリンティングプラットフォームを設立しました。


買収ニュース:https://www.businesswire.com/news/home/20211026005089/en/CORE-Industrial-Partners-Furthers-Its-Investment-Thesis-Into-3D-Printing-With-the-Acquisition-of-3DXTECH-Triton-and-Gearbox


買収タイミング:2021年11月

RE3DTECHは、2017年創業で、PEが買収するにしては比較的新興の企業と分類されるかもしれません。同社は、マルチジェットフュージョン技術(粉末を積み上げた後に、結合剤を配合して加熱し、一気に固形化する)とダイレクトメタルレーザー焼結技術(いわゆる金属3Dプリンティング)に特化した3Dプリンティングサービスを展開しています。


買収ニュース:https://www.businesswire.com/news/home/20220111005398/en/CORE-Industrial-Partners-Forms-a-New-3D-Printing-Platform-With-the-Acquisition-of-RE3DTECH



COREが買収後にどのような支援を行っているのか、公開されている範囲だと詳細を追うのが難しいですが、システムやデータパイプラインの整備を中心とするデジタル化、そして豊富なネットワークを活かした企業買収が中心にあるように感じます。



成熟産業の転換点にbetする

冒頭に記載した通り、「PE」と調べると、VCと比較される形で「成熟産業に投資することが多い」と表現されるのをよく目にします。確かにCOREが注力している製造業は「成熟産業」かもしれません。一方で、買収先の事業を見てみると、「成熟」という表現で括るのは少し乱暴な気がしました。例えば、3Dプリンター用の新素材、そして新素材を扱う3Dプリンターの製造。ロボット溶接・自動精密加工等、industry 4.0に関わるような技術。このように、成熟していると言われる産業の変革を支えるような「新技術」を持つ中堅製造業を探し出して、買収しているようです。


ポートフォリオを見ていると、各企業に共通しているのは、「その産業における転換点に関わるような事業内容である」という点です。例えば、J&K Ingredientsの防カビ剤も、アメリカで注目される「人体に有害でないクリーンな原料」というトレンドに絡んでいますし、製造業における3Dプリンターに対する注目度は近年ますます高まっています。


プラットフォーム戦略

もう1つ、COREの投資活動を見ていて窺えるのは「プラットフォーム戦略」です。確実にやってくるであろう「成熟産業が変革された未来」における主要ポジションをとるために、製品ラインナップ・対応地域を拡大する企業買収を積極的に実施します。その中には、最後にご紹介したRE3DTECHのようなスタートアップっぽいフェーズの企業も含まれています。


昨今、日本のスタートアップにも海外PEの資金が流入してきました(KKR、ベインキャピタル、カーライル等)。一方、どのPEファンドも事業領域を特に絞ってはいないジェネラルなファンドであり、COREのようにPEが主導するプラットフォームを展開するイメージは今のところ湧きません


製造業領域でスタートアップが事業展開する時の難しさとして、①顧客と接点を持つまでと、②接点を持ってからプロダクト導入に至るまでの、2つのリードタイムの長さがあると思っています。まず、その業界で元々豊富なネットワークがなければ、製造業領域の顧客にスピーディにたくさんの接点を持つのはそう簡単ではありません。地道な営業・リファラルを繰り返し、徐々に接点を増やしていくことになります。また、一度接点を持ってから、即導入の意思決定がされるとは限りません。プロダクトの性質にもよりますが、例えば「デジタルを用いた効率化ツール」の場合、一部工程をデジタル化することが全体工程の効率化につながるとは限らず、むしろかえって流れが阻害されてしまうケースもあります。(この点「コンテナ」に関する話が参照になります。)


そういった課題を解決する1つの手法として、スタートアップが業界特化型PEと一緒に事業展開する、という可能性を考えてみます


上記に挙げた2つのポイントのうち、①「顧客と接点を持つまでのリードタイム」については、特化型PEのポートフォリオ企業の既存顧客が豊富にあるため、一気に短縮できる可能性があります。



そして②「接点を持ってからプロダクト導入までのリードタイム」についても、ポートフォリオ企業と組み合わさることによって、一気通貫した顧客体験が実現され、短縮される可能性があります。COREが投資しているSayliteとKELVIXもまさにそういった関係にあるような気がします。KELVIXが上流の顧客要件定義・基本設計を行い、その設計に従ってSayliteが高性能な製品をつくるイメージです。


このように、企業買収を通じてプラットフォームをつくることで、事業開発が一気に進展するという可能性はスタートアップにおいても起こり得ると思います。近年は日本でも徐々に未上場時の資金調達額が増え、大型化が進んでいます。製造業領域でも、スタートアップがスタートアップを買収する、スタートアップが中堅企業を買収する、中堅企業がスタートアップを買収する、というさまざまな動きが増えてくるのではないかと思います。


IDATEN Venturesとしても、今後も「ものづくり・ものはこび」領域スタートアップの非連続な事業成長に向けて、COREの動きやコンセプトも参考にしていきたいと思います。


IDATEN Ventures(イダテンベンチャーズ)について

フィジカル世界とデジタル世界の融合が進む昨今、フィジカル世界を実現させている「ものづくり」あるいは「ものはこび」の進化・変革・サステナビリティを支える技術やサービスに特化したスタートアップ投資を展開しているVCファンドです。


お問い合わせは、こちらからお願いします。


今回の記事のようなIDATENブログの更新をタイムリーにお知りになりたい場合は、下記フォームからぜひ IDATEN Letters に登録をいただければ幸いです。



Comments


Commenting has been turned off.
bottom of page